山梨の地学散歩

ここでは山梨県下で見学できる地層や岩石について、紹介します。まずは山梨県全体の地質・地形について解説をし、各地域の見所を紹介します。皆さんが住んでいるところの生い立ちへの理解を進める参考になれば幸いです。

研究は主には先人たちの成果に負うところが大きいですが、地球科学研究室でそれらの成果をとりまとめ、また取り組んできた地質学的研究に基づいています。研究途上の成果もありますが、これらが自然災害を減ずる(減災)のに少しでも役立てばと思います。ただ、すべては紹介しきれませんので、他の書籍等も参考にしてください。

山梨県の地形・地質の概要

地形

山梨県は本州中央部に位置する内陸県で、県中央部に甲府盆地が位置する(図1-1)。県土の約80%を山地が占めている(図1-2)。甲府盆地は東西約25km、南北約15kmで、北および北東側を関東山地(秩父山地)とその前山に、南側を御坂山地に、西側を赤石山脈とその前山である巨摩山地に、それぞれ囲まれた三角形をした盆地である(図1-2)。盆地の西縁と南縁は活断層による崖で境され、その南は隆起した丘陵・台地からなる。また、盆地内には赤石山脈を源流とする釜無川・富士川が北西から、関東山地を源流とする笛吹川が北東から、このほかに多くの中小河川が流入して、大小の扇状地を形成する。甲府盆地南部、釜無川と笛吹川合流点付近には、低地湿地が広く形成されている(図1-2)。甲府盆地を出た富士川の両岸は、右岸が巨摩山地から続く身延山地から、左岸側は御坂山地から続く天子山地からそれぞれなる。山梨県南東部は巨摩山地や御坂山地と同じ時代の丹沢山地が桂川の南側にそびえている(図1-1)。山地のうち、第四紀更新世から完新世に活動した第四紀火山としては、古い方から黒富士・茅ヶ岳火山、南八ヶ岳火山、活火山である富士山があり、それぞれ山梨県北東部、北部、南東部に位置する。

河川としては先ほどの釜無川と笛吹川が盆地南部で合流し、盆地南端で御坂・天子山地、巨摩山地に穿入し、富士川となり富士川谷を南流して駿河湾に注いでいる。東部には、富士五湖の一つ山中湖を源流とする桂川(相模川水系)が富士山麓を削り、御坂・丹沢山系の中を北から東へ流れ、やがて南流して相模湾に流入する(図1-1)。また、山梨県北東部に位置する多摩川水系は関東山地東部を源流にする。

図1-1 山梨県の地勢図
図1-2 山梨県の地形概略図
図1-3 山梨県および周辺の火山

地質

山梨県土は前項で述べたように約80%を占める山地からなる。この山地のうち脊梁をなす赤石山地や関東山地は、白亜紀~古第三紀の堆積岩類と混在岩を主とする付加体から構成される四万十帯からなる(図1-4, 図1-5)。この堆積岩類を基盤として新第三紀中新世の玄武岩・安山岩類を主とする火山岩や堆積岩が、甲府盆地の西側から南東域の巨摩・身延山地や御坂山地等に分布する。また、中新世に活動した大規模な花崗岩類の貫入岩体である甲斐駒岩体や甲府岩体等が盆地の北西部から北部・東部をとりまくように分布している。

第四紀前半に甲府盆地北東部の黒富士火山からデイサイト質から安山岩質の火山岩や火砕流の噴火が起こる。その後第四紀後半に南八ヶ岳火山による安山岩を主とする火山活動が始まる。その活動が終了する頃、第四紀更新世末頃、富士山の玄武岩質を主体とする火山活動によって厚い噴出物が形成された。

甲府盆地西縁には、糸魚川―静岡構造線がほぼ南北方向に走り、南東縁にそって曽根丘陵断層群が存在し、盆地と山地・丘陵の境となっている。

図1-4 山梨県の地質層序表
図1-5 山梨県の地質概略図

甲府盆地の地下地質

甲府盆地の地下地質構造を解明するのに、南八ヶ岳火山起源の韮崎岩屑なだれ堆積物と黒富士火山起源の黒富士火砕流堆積物が良好な鍵層となっている。地下地質構造探査の結果をあわせ、地下地質構造が検討された(山梨県,2003;糸魚川-静岡構造線探査)。その結果、甲府盆地地下地質層序は、下位より順に、基盤岩類とそれらを不整合に覆う水ヶ森火山岩、黒富士火砕流、下部礫層、韮崎岩屑流、上部礫層で、さらに最上部の礫層に大別される(図1-4)。大きくは海野(1991)の区分とおおよそ同じであるが、上部礫層や下部礫層が細分できる可能性が出てきた。特に上部礫層は広域火山灰であるAT(姶良丹沢テフラ)をはさむ細粒堆積物により二つに区分される可能性が出てきたが、甲府盆地全域の地質データを総合して今後詳しい解析が必要である。八ヶ岳南麓から甲府盆地・曽根丘陵までの地下地質構成や構造の結果をまとめたものを図1-6に示す。

図1-6 甲府盆地地下の概略地質断面図

見学に当たっての基本的注意

「山梨の地学散歩」では、地質学的な野外見学で地表に露出する地層や岩石と地形の観察が中心です。

ほとんど個人や公共の所有・管理している場所に立ち入ります。見学や試料採集にはこれらの方々の事前了承が必要となります。

また、今回紹介する見学地点には比較的安全な観察地点もありますが、地質学的野外見学には当然ながら危険が伴うことを心にとめて安全に気をつけて下さい。