基盤研究
富士五湖・湖底堆積物の有機地球化学分析による自然環境変遷史の復元

研究代表者
山本真也(地球科学研究室)
共同研究者
内山 高(地球科学研究室)
研究協力
北海道大学低温科学研究所
研究期間
平成25年度~27年度

研究背景及び目的

富士火山を取り巻く自然環境は、度重なる噴火により、破壊と再生を繰り返してきた。特に、噴火が森林生態系へ与える影響は深刻であり、溶岩流や火砕流による植生の焼失や、降下火砕物・火山ガスによる枯死や遷移阻害により、中長期的な環境擾乱を引き起こす。富士火山の火山性堆積物(溶岩やテフラ)中には、噴火に伴う森林破壊によって生じた溶岩樹型や炭化木片が多数保存されており、過去の噴火による自然環境変遷を知る上での貴重な資料となっている。しかし、火山性堆積物の分布範囲は地理的に限られており、また噴火時にしか堆積しないことから、その記録は時空間的に断片的であることが多く、過去の火山活動に伴う自然環境擾乱の実態については、ごく最近の噴火(宝永や貞観噴火など)を除けば、未だ明らかになっていないのが現状である。

こうした背景から地球科学研究室では、先行研究において富士五湖の湖底堆積物の掘削を行い、その年代や堆積物への富士山火山活動の影響を明らかにしてきた(内山・輿水、2001)。また、内山(2004)は、山中湖で詳細な花粉分析を行い、完新世初頭(約1万年前)の富士北東麓では、大規模な噴火活動により森林植生が破壊され、ススキ属を主体とする草原環境が広がっていた可能性を指摘した。ただし、1)完新世初頭の草原植生の増加は、当時の急激な温暖化を反映して全国的に見られる現象であり、また2)花粉・胞子化石が陸域環境で保存されにくいことを考えると、その噴火活動との因果関係については、花粉以外の分析法も併用し、慎重に検証していく必要がある。

堆積物中の陸起源有機化合物は、花粉のように属レベルでの植生変遷を明らかにすることはできないが、植物ワックスの分子組成や安定同位体比からは、後背地の植生の情報が得られる。また、自然火災で生成する多環芳香族炭化水素(PAHs)は熱に強く、煤と伴に広範囲に輸送されることから、これら有機化合物の層序学的変化を検討することで、森林火災の痕跡を直接検知することができると期待される。そこで本研究では、富士五湖・湖底堆積物の有機地球化学分析を行い、過去の富士山火山活動に伴う富士北麓の自然環境変遷史を明らかにすることを目的とする。

富士北麓地域は、富士箱根伊豆国立公園の中核を担っており、富士火山とそれを取り巻く豊かな自然環境は、県民の大きな財産となっている。「富士北麓の自然環境は、富士火山の度重なる噴火活動によって、どのような変遷を遂げてきたのか?」富士火山と自然環境との有機的な関わりを示す科学的根拠を明らかにすることで、富士火山を取り巻く自然環境についての理解を深め、その価値を高めていくことにつながると考えられる。