研究室紹介

『環境生化学研究室』

「微量元素から見た地下水及びそれらの健康影響に関する研究」


瀬子義幸・長谷川達也

地下水中の微量元素の測定

 山梨県の水道水の約70%は地下水に依存していると言われています。現在は、良質の地下水が比較的豊富に得られており、県全体としては重大な水不足などの問題はないようです。しかし、いつまでもこの状態が続くとは限りません。人間活動に伴う地域的あるいは地球規模の環境変化によって、水質が悪化したり水量が減少する可能性があります。そのため、地下水を中心として、山梨県の水環境の現状と水環境を造り上げている様々な仕組みを今の内に明らかにしておくことが、将来の環境変化に対応するためには重要であると考えています。

 環境生化学研究室では、県内各地の地下水中の化学成分を詳細に分析し、水質や水量を決定している環境要因を明らかにすることを目的として研究を行っています。現在、分析には主にICP-質量分析計という分析機器を使用しています。この機器によって、多くの試料について迅速かつ超高感度に、水に含まれる様々な微量元素(ルビジウム・タングステン・バナジウム・バリウム等)の測定が出来ます。

 地下水中の微量元素は、地下水が流れてきた地層の組成のみならず、酸性雨、廃棄物の投棄、降水量などによっても影響を受ける可能性があるため、広い範囲にわたって継続的に測定をすることにより、地域の特徴や環境変化を見る指標となり得ます。本年8月には、保健所と衛生監視指導センターの協力を得て県内各地から集められた地下水を分析し、地下水中の微量元素の組成の地域差なども明らかになりつつあります。

 地下水の全体像を明らかにするには、もちろん微量元素の分析だけでは不十分で、それ以外の成分についていも分析手法を確立し、分析していく予定です。また、これまでにも、県内の試験研究機関・組織等が水環境に関わる調査研究を行っています。水環境(特に地下水)に関わる調査研究を行っている試験研究機関・組織相互の協力体制を造り上げて、多くの情報を集め、また、知恵を出し合って、水環境あるいは地下水の全体像をより明らかにすることを目指しています。

微量元素と健康に関する研究

 地下水など、水道の水源に用いられている水の中の化学物質は、飲料水として摂取したり、料理に使われることにより、人間のからだの中に取り込まれ、健康増進や健康悪化などの影響を及ぼす可能性があります。

 環境生化学研究室では、様々な化学物質の人への影響を考えるために、化学物質の分析法の開発や、体内での動きあるいは生体影響の機構を明らかにするための研究も行っています。地下水の研究でも主要測定項目の微量元素のいくつかは、生体にとって必要不可欠であることがわかっています。私どもの研究では、必要不可欠な元素でも、過剰に摂取すると活性酸素と呼ばれる有害物質を作り出して、生体に悪影響を与える可能性のあることを明らかにしています。

 以上の水質調査と微量元素の生体影響の研究は、環境科学研究所の地下水に関するプロジェクト研究として位置づけられています。研究成果が、山梨県に役立ち、かつ学術的にも価値のあるものにするため、今後も情報と試料を集め、分析を行っていきます。

(せこ よしゆき・はせがわ たつや)

実験風景
微量元素を超高速感度かつ迅速に分析することのできるICP-質量分析計による地下水の分析

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