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新着図書紹介

『地球はいつまで我慢できるのか −緑の生態系への旅』
ジョン・ハート著
網野ゆき子訳
晶文社 1997

 本書(原題「The Green Fuse」)は「緑の導火線を通って花を駆りたてる力は わたしの緑の年齢を駈りたて 木々の根を砕く力が わたしを破壊する でも わたしは口が利けないので萎えてねじれた薔薇には言えない 同じ冬枯れの熱気でわたしの青春がねじ曲げられていると・・」というディラン・トマスの詩で始っています。その中で、著者は地球の生態系の姿を様々なヒューズに喩えています。地球環境の悪化への早期警報装置としてのヒューズ、あるいは今まさに点火してしまい、多くの被害をもたらし得る発火装置としてのヒューズ、そして自然界の連合、統合といった意味でのヒューズなどがあります。

 気鋭の生態学者である著者は、サケが溯るアラスカのブリストル湾、マングローブの生い茂るフロリダの湿原、サンショウウオの棲息するロッキー山脈、アマゾン川流域の熱帯雨林、ジャワの深海のサンゴ礁、そして、野生動物の宝庫チベットの山岳地帯へと赴き、精力的なフィールドワークを行ないます。異なる気象状況の中で融合し支え合う生物の姿は美しく、自然の営みの荘厳さが感じられます。

 一方、豊かな生態系に恵まれた「地上の楽園」であるこれらの地域でも湖沼や海洋の汚染、温暖化、酸性雨、熱帯林の伐採、オゾン層の破壊といった問題が深刻化しています。それらの多くは人間の手によってもたらされたものであり、人間生活の豊かさの代償として、生物の共生のバランスは崩され、地球は大きな危機にさらされているといえます。今、人類に課せられた任務は何なのか、自然との共生の可能性を探る方向が示唆される著作です。


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