研究室紹介

『動物生態学研究室』

動物の分布と生態を把握し、生物多様性の保全策を探る研究

北原 正彦・今木 洋大

 動物生態学研究室では主に2つの研究活動が行われています。1つは自然環境の変化に伴う動物相の変異の実態を扱う群集生態学的な研究であり、もう1つは、県下の野生動物の分布・生態の実態を明らかにし、それらの保全や管理のシステムを構築する野生動物管理学的な研究であります。前者は主にプロジェクト研究「富士山の自然特性に関する研究」に、後者は特定研究「農林業に対する鳥獣害防止のための研究」に関係しています。

自然環境と動物群集の関係

 富士山は日本一の標高を有し、山麓から山頂に至るまでの大きな標高差は、様々な自然環境を造り出しています。一方近年、観光地、リゾート地としての開発が進み、山麓部を中心にして自然環境が大きく変化し、多様な動物相も変わりつつあると言われています。当研究室では現在、富士山周辺の変わりつつある自然環境の変化が、動物相(群集)にどのように影響し、変化の実態がどのようになっているのかを調査しています。

 昆虫の蝶類を用いた今までの調査では、蝶類群集の種類数は、環境への人為的な働きかけ(例えば、道路の舗装化や植生管理(草刈、消毒、煎定)など)の程度や光条件に大きく影響されることが解ってきました。森林で言えば、人為的撹乱が頻繁に生じない、明るい林縁を持つ広葉樹の森が、蝶の種類数が多いことが解りました。少なくとも蝶においては、草原を取り混ぜた森林環境が多様性維持のためには必要と考えられます。

 現在、多くの動物群を対象にして様々な自然環境との関係を調査中で、成果については富士山周辺の生物多様性保全の在り方や動物に配慮した開発の在り方等に生かしていきたいと考えています。

蝶
富士山の代表的なチョウ「ヒメシロチョウ」(ツルフジバカマの花で吸蜜中、船津胎内にて)

野生動物の保護と管理

 山梨県は、秩父山地、八ヶ岳、南アルプス、御坂山地、そして富士山と多くの山々に囲まれ豊かな自然を誇っています。これらの山々は関東山地や中部山岳地帯とつながり、クマやシカ、カモシカ、サルなどの大型哺乳類に貴重な生息地を提供しています。このような点から、関東を中部山岳地帯へ繋ぐ役割を果たす本県は、長期的に見て日本の野生動物をわれわれの子孫に残せるかどうかという鍵を握っているといっても言い過ぎではありません。一方で現在県内では、野生動物による農林産物被害が急増しており、被害対策が緊急の課題となっています。特にニホンザルは、対策がもっとも難しい動物の一つであり農家の方々は日々頭を悩めています。そのため、科学的な根拠に基づいた有効な被害対策の提案が早急に必要です。

 このように当研究室では、より広い視野に立った広域的な生物多様性の保全に関する研究から、本県のサルやイノシシによる農作物被害の管理に関する具体的な提案まで、他研究機関や行政の関連部局と連携を取りながら精力的に研究活動を行っています。

(きたはら まさひこ・いまき ひろお)


目次へ 前ページへ 次ページへ