巻頭言

リモートセンシングによる環境モニタリングの重要性


地域環境政策研究部 宮崎忠国


著者近影

 人がはじめて人の目で地球全体を観る事が出来るようになったのはそれほど古い話ではありません。1961年4月、旧ソ連邦により打ち上げられた人工衛星ボストーク1号はガガーリン大佐(1934-1968)を乗せた史上初の有人衛星でした。この事件は世界中の人に驚きとロマンを与え、数多くの若者が宇宙を研究する研究者や宇宙飛行士になる夢を持ちました。ガガーリン大佐がボストークから地球を観て「地球は青かった」と言ったとき、本当に地球は青いのか、地球儀のように地球がまるく見えるのかなどいろいろな疑問を持ったことを憶えています。あれから40年足らず、世界の多くの国から地球を観測する人工衛星が打ち上げられてきました。あるものは軍事目的で、あるものは気象観測のため、また、あるものは資源探査や地球環境を監視するために打ち上げられました。

 地球環境を監視するための最初の人工衛星は1960年に打ち上げられた米国の気象実験衛星TIROS-1です。1964年には気象や海色などを調査するNIMBUS実験衛星が打ち上げられ、大気成分や海水中の植物プランクトンの分布など多くの興味ある結果が得られました。このころから人工衛星を用いて地球環境を調査する方法をリモートセンシングと呼ぶようになりました。1972年には実用衛星としてERTS-1(後にLANDSAT-1と改名)が打ち上げられ、本格的な地球環境や資源の調査がはじまりました。米国以外の衛星としては日本からMOS、JERS、TRMM衛星など、フランスのSPOT衛星、インドのIRS衛星などがあり、目的に応じてそのデータが利用されています。

 地球環境の現況の把握や環境変化の将来予測には地球全体の長期的な環境観測が不可欠です。人工衛星を用いたリモートセンシングは、広い地域を同時にまた繰り返し同じ場所を観測することが出来るため、広域環境調査、特に地球環境の調査に最も適した手法です。反面、地上の小さいものを識別できない、定量的な計測が難しい、雲などがあると良いデータが得られないなど欠点もあります。しかし、これまでにリモートセンシングを用いた巨視的な観測により、南極上空のオゾンホール、エルニーニョ現象、熱帯林の減少、砂漠の拡大など多くのことが分かるようになりました。勿論、局所的な精密な調査や観測は必要ですが、こうした巨視的な観測は局所的な観測ではわかりにくい多くの現象を明らかにしてくれます。

 持続的発展を可能とする社会づくりは地域的な環境保全が基盤となります。しかし、地球規模の環境変化が地域環境の変化に与える影響は大きく、地域的な環境保全のためには、地球環境を監視し、将来の地球環境を予測しなければなりません。地球環境を予測する上で最も必要とするデータはこのような巨視的なリモートセンシングにより提供されます。今後、解像度の良い、地球を監視するための衛星の打ち上げが予定されており、地球的あるいは地域的な環境施策を検討する上で、リモートセンシングによる巨視的な環境監視の重要性はますます高まってゆくと予想されます。

(みやざき ただくに)

地球
宇宙から見た地球(東海大学情報技術センターによる)

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