研究室紹介

『地球科学研究室』

地球表層部に記録されている情報の解析から未来の環境変遷を予測する研究

輿水達司・ 柴田知之

 地球は生きている。と言っても、植物や動物のように呼吸しているわけではありません。地球の表層部(地殻)に残されている記録を解析してみますと、長い地球史の中で、地球自身の力で寒くなったり暑くなったりしながら、常に変化し続けてきている地球の様子が分かります。

 その変化に規則性を見い出し、未来の環境変遷の予測に役立てる研究を我々は進めています。その具体的研究を以下に紹介します。

1.山梨県および周辺域の岩石圏・水圏・生物圏における物質循環

研究の意義

 地球は長い時間スケールの中で、表層の姿を変えてきました。この現象は、地球表層部の岩石圏と大気圏の境界面における風化・浸食を始めとする物質循環システムの中で行われてきたものです。このシステムに規制され、ヒトを含む生物が育まれてきました。いいかえれば、その時その時の地球表層部の岩石・地層等の状況が水を媒体にして生物類に影響を与えてきた、ということです。しかも、多数の元素につき上記循環システムが明らかにされていれば、仮に人為的影響による元素の濃集があった場合、原因の解明が容易になります。では、具体的に山梨県内の各地で、この循環システムがどのように行われているかを解き明かそうとするのが本研究です。

研究内容

 山梨県の各地の岩石や地層の性質の違いが、水を媒体にしてそこに生育する生物類にどのように反映されるかを明らかにすることが目的です。この解明にあたり、岩石・地層、水、生物に含有される元素分析を行います。ただ、この循環システムの出発点となる岩石や地層については、単に化学組成だけでなく地質構造、産状、分布地域の地形などが考慮され、水圏への循環が理解されます。更に生物圏へと元素循環が追跡されます。最近山梨県及び周辺域におけるこの研究成果が学会誌に発表できるようになりました(図参照)。一例として、富士山麓及び相模川水系側と甲府盆地及び富士川水系側の各々に分布する岩石・地層中のバナジウム濃度の相違が、水を媒体にしてそこに生育する動・植物にまで反映していることが明らかになりました。バナジウム以外の多数の元素についても検討中です。

図
(「地球環境」(1998)に発表済み)

富士川水系および相模川水系における水および動・植物中のバナジウム濃度

2・富士五湖周辺の環境変遷史

研究の意義

 過去の環境変遷を長期間にわたって詳細に記録しているものを探り出し、そこから過去の環境変遷を正確に復元し、復元された過去の記録に基づき、将来の自然環境を予測することは重要です。このための研究には湖沼の堆積物が有効であります。

研究内容

 富士五湖は富士山の活動の過程で形成されました。従って、各湖底には形成時から今日まで、下位から上位に向かって富士山および富士五湖周辺の自然環境の変遷が連続して堆積物に記録されてきています。しかし現在までのところ、これら堆積物の厚さはもとより、体積(量)もわかっていません。勿論、湖底堆積物につき、その基底より上位にむけての系統的な研究はなされていません。

 そこで昨年度音波探査を実施したところ、各湖底の概形が見えてきました。更に、各湖底堆積物は粒度や硬さなどの物理的性質に基づき、いくつかの層に大区分されそうです。この内、最上位を構成する堆積物には人為的な活動の反映が認められ、また、これら上位層の特徴が各湖により幾分違っているようです。以上は物理的手法で、単に堆積物の概形を浮き彫りにしたに過ぎません。

 今年度以降は実際の堆積物を採り上げ、古生物学・現世生物学的手法、年代学的手法、分析化学的手法を主な研究手段として解析をすすめ、歴史科学的に五湖の環境変動を明らかにします。その上で、将来の自然環境変動を予測します。

(こしみず さとし,しばた ともゆき)


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