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『わが家の新築奮闘記』
池内 了著
晶文社

 家を建てるということは、大方の人にとって一生の一大事業です。育ち盛りの子どもが各々の部屋を持てるように、あるいは二世帯住宅で息子夫婦と暮らすためなど、新居の購入理由も様々です。宇宙物理学者である池内了氏は、子どもの独立後の夫婦二人の生活空間としての家を新築することとなりますが、本書は池内氏(家)が、科学者ならではの、原理に立ち戻る姿勢で家づくりに取り組んだ過程を綴ったエッセイです。

  この家づくりは、動燃事故に関するコラムに、氏が太陽電池パネルの使用を宣言したことに始まります。日頃から環境への意識を持っているつもりでいても、理論の段階では予想もしなかった問題が、実際の申請や設計の過程で次々と生じます。環境問題の根幹は大量生産、大量廃棄の経済社会構造にあり、家を建てること自体が生産であり消費ですから、環境への配慮と、施主の要望の間に矛盾が生まれるのは当然のなりゆきと言えるでしょう。便利さ、安全性、見た目の美しさを追求すれば、環境には負荷がかかってしまい、また環境を意識すれば逆にエネルギー消費が増える結果になることもあります。

  そのような中で、設計、建築に携わる人々と綿密に相談を重ね、本当に必要なものは何か、妥協できる部分はどこか、どうすればより安全で環境と共生できる家を建てられるか、模索しながら、家を完成させていきます。一番の難敵である夫人との駆け引きもユーモラスに描かれており、また、大切な家族である愛犬の住居への心遣いも微笑ましく感じられます。

  一家にとっても家づくりは大変なことですが、この作業は個人に留まらず、環境という範疇で考慮すべき大きな課題であることを、改めて考えさせられます。今日の社会構造の中では、環境との共生はあり得るのかと疑問に感じてしまうこともありますが、本書の中で紹介されている雨水の再利用や栗の木、柿渋の効用などは試してみようかと思わせ、その後の様子が気にかかります。

 「疑問をいつも持ちながら、自分の生活を点検する」ことが新築一ヶ月半を暮らした氏の実感とのことですが、この姿勢が、家づくりに限らず、私たちの生活に必要なのではないでしょうか。

(三澤 麻須美)

                           
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