巻頭言

三年目に入った環境科学研究所

所長 入來正躬
著者近影
 当研究所の研究は、それぞれ基盤研究、プロジェクト研究、特定研究に位置づけられています。平成6年より9年までの第16期日本学術会議会長によって提唱され、一般に広く受け入れられてきた、基盤研究、戦略研究、応用研究という考え方にのっとったものです。
 基盤研究は、科学者の興味、好奇心に駆動される研究であり、応用目的とは直接の関係はありません。本研究所でも基盤研究と位置づけています。
 応用研究は、すぐ間近に応用しうる可能性をもつ研究です。本研究所の特定研究がこれに相当します。行政にとっての緊急課題を一定期間内に検討して報告する事が要請されています。
  戦略研究は、戦略的研究とも表現されるもので、基盤研究と応用研究の中間を埋め、それらをつなぐ位置にあります。明日の役に立たなくても、数年後に役立つ可能性の高い研究です。本研究所のプロジェクト研究はこれに相当します。
 研究所の設立で、まず第一に重要なことは基盤研究の充実です。質の高い基盤研究が行われて始めて、戦略研究や応用研究において、皆様の御期待に応え得る質の高い成果をあげることが出来ます。我々もまず基盤研究の充実につとめ、3年目に入った現在、成果が上がりつつあります。
 しかし皆様御承知の通り、研究には時間がかかります。一般に一つの研究の成果があがるまで3年から5年以上かかるとされています。
  従って、まず基盤研究を、それが一応の成果をあげてから戦略研究をというのでは時間がかかります。そこで基盤研究を始めると同時に、プロジェクト研究も特定研究も発足させて並行して研究を進めています。
  研究所では戦略研究をプロジェクト研究として行うことにしました。戦略研究がプロジェクト研究である必要性は地球環境科学の特徴に由来しています。
  地球環境科学は、人類および国家の利益と科学のグローバリゼーションの両立を目指すものであり、社会、国民の福祉と科学技術との密接な関係の上に成り立つものです。人口、食糧問題などが統合的に検討されるべきであり、生物の競争、相互作用、共生が諸科学の上に論じられる必要があります。
 さて、平成11年5月6日(木)より9日(日)まで山梨県環境科学研究所において第10回地球温暖化国際学会10th GWIC Global Warming Conferenceが開催されました。
 地球温暖化の問題は広いため、その中から今回は「地球温暖化と気候変化」と「21世紀の環境と健康」の2つを中心テーマとして選びました。
 本学会の特徴の一つは、研究者と行政担当者が一同に会して討論できることです。地球環境科学の研究では、研究の成果を社会に還元することも重要課題とされています。本学会はこの方向を目標として活動しており、さらに前進することを期待しています。
 最後に、本国際学会の実施にご協力を頂いた多数の方々に深謝の意を表したいと思います。

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