研究室紹介

『環境生理学研究室』
健康で快適な環境づくりのための研究

永井正則 臼井信男 佐藤昭子
 山梨県は自然に恵まれています。その自然は、単に豊富であるというだけでなく、 多様性に富み、適度な緊張感を感じさせます。環境生理学研究室では、山梨県の自然 環境を構成するさまざまな要素が、人の心と身体にどのように影響するかを実験的に 明らかにし、健康で快適に暮らしてゆくための環境づくりに関する基礎知識を、広く 社会に提供することを目指して研究を行っています。
 環境生理学研究室では、脳科学、生理学、心理学などの研究手法を総合的に用いて 研究を行っています。環境科学のような学際的な学問分野では、このように異なる分 野の手法を組みあわせて用いることが有効であると思います。人を対象とする実験は 、人工気象室で行っています。人工気象室の中では、気温や湿度、光の強さや色など さまざまな環境条件を任意に設定することができます。人工気象室内に被験者に入っ てもらい、気分の変動と自律神経のはたらき、注意力や集中力といった脳のはたらき を同時に測定し、環境要因の変化が、心や身体や脳のはたらきにどう影響するかを調 べます。
 このような研究には、被験者の協力が不可欠です。幸い、山梨大学、山梨医科大学 、山梨英和短期大学、都留文科大学、富士吉田市立看護専門学校の御協力と研究所内 のボランティアの御助力のおかげで、支障なく必要な被験者数を集めることができて います。
 過去2年間の研究成果のうち、空気の質・香りに関するものを以下に紹介します。 森林浴やアロマテラピーの効果を裏付ける部分もあります。
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実験準備の様子

1)好みの香りは快適感をもたらす。
 100名を越す被験者を調査した結果、好きな香りは“爽やか”で“心地よい”と 表現される快適感をもたらすことがわかりました。好きな香りを嗅ぐ前後で心理調査 を行うと、好きな香りは、緊張をやわらげ、不安を軽減し、頭 をすっきりさせる、ということがわかりました。
2)快適環境は心拍数を下げる。
 好みの香り、すなわち快適感を起こす香りを嗅ぐと心拍数が低下しました。心理 的な効果が、自律神経のはたらきに影響したと解釈できます。香りがない時には、こ のような効果は見られませんでした。好みの香りがあると、目に光を当てると瞳孔が 小さくなるという対光反射の反射高が大きくなることがわかりました。
3)快適環境で運動すると血圧の上がり方が小さい。
 運動中は、血圧が上がります。好みの香りがあると、運動中の血圧の上昇が小さ いことがわかりました。筋肉などへの血行がよくなっているためと考えられますが、 詳しい原因については現在、実験を工夫して調べているところです。
4)快適環境では知的作業効率がよい。
 単純な計算などでも、長く続けていると答えを出すまでに時間がかかるようにな ります。好みの香りがあると、答えを出すまでの時間が長くならず、しかも正解率も 変らない、つまり作業効率が低下しないということがわかりました。
 空気の質・香りの効果以外に、山梨県では標高差が大きい、昼夜の温度差が大きい ということがあるので、気圧の効果や温度の効果についても実験を重ねています。将 来は、実際に野外環境の中でデーターを取り、人工気象室でのデーターと比較するこ とを予定しています。このような研究結果が、健康で快適な生活を設計していく上で の、基礎資料になることを望んでいます。
(ながい まさのり, うすい のぶお, さとう あきこ)
                
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