巻頭言

研究所の使命


副所長 高石純一


著者近影

 当環境科学研究所は、平成9年に創設されて、この4月で2年を経過しました。

 地方自治体の設立した研究機関の多くが既存の研究機関を改組している中で、「環境科学」を柱にした研究所を新設した例は珍しく、他の都道府県から注目され、研究者や行政担当者など視察が少なくありません。その際、施設の立地や設備整備など研究環境に恵まれていることを一様に感嘆し、羨望の辞を頂戴しますが、外交辞令とは思っても時には面映ゆく、時に複雑な気持ちで受け止めております。これも本県が、首都圏にありながら片隅の小県というイメージをもたれて来られたところが、予想以上のものだったからでしょうか。これからは、実績面においても胸の張れる評価を受ける研究所を目指して邁進して参りたいと存じます。

 ところで、当研究所の特色として、本来の研究機能に加え、県民に向けたサービスをも重視し、環境学習システムや情報提供サービスの充実、更に環境をテーマとする交流機会の提供など複合した機能を備えています。このため開設以来、実に10万人近くの来訪者を数え、所員一同、連日うれしい悲鳴を上げております。

 来所の目的は多様で、当研究所主催の研究報告会や環境科学講座の聴講のため、学校教育の一環としての集団研修もあれば、家族ぐるみの環境学習室の利用という目的もあります。また、情報センターの文献紹介、パソコンやビデオコーナーの利用、さらに、自然観察会や研究所施設そのものの見学のためなど、様々な目的をもって来所されております。

 このようなことから、環境に対する県民の関心の深さを改めて感じさせられますし、また、単なる見学や知識の習得に止まらず、問題意識を持って利用する傾向も強く、「なぜ?」「いかに対応すべきか」と問題解決に向けて取り組む姿勢への変化も窺えます。 そこで、このような熱い期待に対して、当研究所はどう応えていくのか、3年目にしてその力を試される年であると考え、研究機関としての使命に向かって懸命に努めているところであります。

 研究成果は、一朝一夕に成るものでないこと、加えて本県での環境に関しての研究実績や基礎資料の蓄積がこれまで乏しかったこともあり、改めてデータ収集や分析を重ね、研究基盤の積み上げを図ってきております。

 当研究所の特徴は、まずは県立の研究機関としての立場であり、研究活動による成果は勿論、その過程で得られたデータ類も含め、ひとえに県民の貴重な財産でありますので、これらが有効に活用されてこそ、初めて県民のための研究所として認識されます。

 そこで、その成果をどのように県民に還元させることができるのか、多様なニーズにどう応えられるのかが大きな課題であります。つまり、県民福祉の向上や地域の振興にどのように貢献できるのか、「環境首都やまなし」を政策目標に掲げて行政施策を推進する中で、当研究所としての真価が問われようとしております。

 環境に関して県民の関心や疑問は、これからも様々な形で深まり高まっていくと思われますので、研究活動はもちろん、環境情報の提供、環境に関する相談など、多様な県民の「?」に応えさらに時代の要請に的確に対応していくことが、県民から信頼される県民のための研究所としての重要な使命の一つと考えています。


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