研究室紹介

『人類生態学研究室』

生活環境の変化と地域住民のライフスタイルとの相互関連に関する研究

本郷哲郎 小笠原 輝 佐藤香織

 人々は、長い歴史の中で、自らを取り囲む環境を変化させてきましたが、その環境にうまく適応できた場合に生存や快適な生活が保証されることはいうまでもありません。近年、都市化や開発、あるいは産業構造の変化などによって地域の環境が大きく変化してきています。それに伴って人々のライフスタイルも大きく変わっていく一方で、ライフスタイルの変化が、また、環境を変化させます。人を取り巻く環境は、まず、最も身近な生活環境があり、地域の環境、そして地球環境と広がっていきますが、ライフスタイルの変化が身近な環境を変え、その変化が積み重なって地域の、さらには地球環境へも影響を与えることになります。地域の環境が、住民のライフスタイルの変化とともにどのように変化するか、そして、生活環境の変化とライフスタイルの変化が相互に関連しながら地域住民の生活や健康にどのような影響をおよぼすかについて、個々の地域の特性の違いを考慮に入れて明らかにし、地域住民が快適で健康な生活をおくるための地域環境の整備の方法をさぐることが人類生態学研究室のめざす研究です(図1)。
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図1 人類生態学研究室のめざす研究

 そのためには、まず、地域の特性を把握することが重要となります。ところで、地域人口の構造には、その地域に暮らす人々がそれぞれ環境にどのように適応してきたか、すなわち、生活環境と人のライフスタイルがその地域でどのように関連して変化してきたかが反映され、その分析を通じて地域に生じている問題点を見いだす手がかりが得られます。例えば、人口の過密化が進んでいる地域では、都市機能の低下や自然の消失、大気汚染、水質汚濁といった環境の悪化が、一方、人口の過疎化が進んでいる地域では、生活の利便性の低下や少子高齢化に伴う生産機能の低下等が予想されます。このような視点から、1920から1995年までの人口の経時的変動を分析し、それぞれの地域の特性の把握を試みる研究を進めた結果、県内の各市町村はそれぞれ地域的なまとまりをもった6つのグループに分けることができました(図2)。山梨県の特徴としては、周囲を山々に囲まれ、居住地の条件としても、また、産業の立地条件としても好ましい平地部分が少ないことが挙げられますが、このような地形条件がそれぞれの地域の産業構造に影響を与え、人口変動のパターンの違いに反映されていることが明らかとなりました。
人口変動パターンによる山梨県各市町村のグループ分け
図2 人口変動パターンによる山梨県各市町村のグループ分け

 今後は、異なる特性を持った県内の複数の地域を対象にフィールド調査を展開していく予定ですが、その第一歩として、上野原町および大月保健所と協力し、生活習慣と環境認識に関するアンケート調査を約1000人の住民を対象に実施しました。上野原町は首都圏に近いこともあって近年急激に人口が増加し、それに伴い、生活環境の変化が急激に起こっている地域として特徴づけられます。さらに、住民の健康調査も加え、得られた研究成果は、地域の環境整備とともに保健活動の充実に活かしていきたいと考えています。
 
(ほんごう てつろう, おがさわら あきら, さとう かおり)
                
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