研究紹介

良い脂肪と悪い脂肪 
      環境生理学研究室
           永井正則

 ニューズレター Vol.3 No.1号では、環境生理学研究室が中心となって行っているプロジェクト研究について紹介しました。今回は、環境生理学研究室で行っている基盤研究の中から、脂肪細胞の働きについての研究を紹介します。

 脂肪細胞の研究をしている理由は、人や動物が寒冷な環境の中で、体温を維持しながら健康に生活してゆくために、脂肪細胞の働きが大切だからです。北ヨーロッパの国々では、寒くなると人も動物も病気になりやすいことが報告されています。山梨県も、北巨摩や富士北麓の冬はとても寒く、雪も積もります。甲府市でも、もちろん冬は寒いですし、春や秋でも昼と夜の気温の差が大きいため、温暖な気候とは言えません。寒冷な環境の中で生きてゆくために、脂肪細胞の働きは大切です。しかし、一方で脂肪細胞は成人病の引き金を引きます。そのため、肥満はいけないと言われますが、なぜそうなるのかというメカニズムについては、あまり知られていません。

1.寒さと脂肪細胞の働き
 脂肪細胞には白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞の2種類があります。寒い時に、細胞の中にため込んだ脂肪を分解して盛んに熱を発生するのは、褐色脂肪細胞の方です。赤ちゃんには褐色脂肪細胞がたくさんあります。誰も覚えていませんが、私たちは生まれてくる時とても寒かったはずです。お母さんのおなかの中は大体37℃です。生まれ出てくる部屋の温度は、それより10℃以上低いのが普通です。おまけに身体は濡れています。お風呂から身体も拭かず、暖房していない部屋に入ったようなものです。実際、出生後には体温は一時下がります。下がった体温がもとに戻るのは、褐色脂肪細胞が熱を作り出すためです。

 大人でも、寒い戸外で労働をする人は褐色脂肪細胞の活動は高く保たれています。また、カロリーの高い食事を食べ続けた時も、褐色脂肪細胞の活動は盛んになり、余剰なカロリーを熱に変えます。このように、褐色脂肪細胞は寒さを防ぐこと以外に、体重の維持にも役立っています。褐色脂肪細胞は、身体にとって良い脂肪細胞と言えます。

2.脂肪細胞と糖尿病
 身体に白色脂肪がつきすぎると肥満と言われます。特に内臓の周りについた脂肪細胞はその性質を変え、TNF-α(ティーエヌエフアルファ)という物質を分泌します。このTNF−αは、糖尿病の引き金を引く物質です。このように、内臓の周りについた白色脂肪は、身体にとって悪い脂肪細胞と言えます。一方、脂肪がほとんどつかないという病気になる人がいて、このような人は糖尿病を併発します。脂肪細胞があり過ぎてもだめ、無くてもだめ、ということですから、良い白色脂肪細胞が適当にあることが大事になります。環境生理学研究室では、褐色脂肪細胞の働きを活性化し、同時に性質の変わってしまった白色脂肪細胞をもとに戻せるかどうかを実験的に研究しています。(図)

(ながい まさのり)




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