関係機関からのメッセージ


自然に学ぶこと

河口湖フィールドセンター
館長  篠原滋美

■河口湖フィールドセンターとは
 富士山は自然の宝庫、この宝庫を野放しにしておいたのでは崩壊してしまう。そんな危機感から、それを保護し後世に継承すべきだと、企画したのが河口湖フィールドミュージアム構想でした。

 自然の恵みと富士山信仰の文化遺産を中心に、その保護思想を涵養しながら、自然と人間が直接触れ合い、感性を磨き、自然の素晴らしさを体験することによって、自然を大切にする心と自然を愛する感性を育むことを考えております。

 国指定天然記念物「船津胎内溶岩樹型」を中心に大小二百数十個を数える溶岩樹型洞穴群を保護管理しながら、これを公開し自然と人間とが直接触れ合い、自然が織りなす無限の魅力を享受し、自然と人間が共生するにはと言う課題を提起する環境教育の場として、1994年5月にオープンしました。

■自然から学ぶこと
 人間として生まれながらに具わった感覚器官が誤作動を始め出したのは20世紀も終りに近づいたころからでした。美しいものと汚いもの、本物と贋物、嘘と本当が混在し価値判断能力が低下してしまい、人間としての生き方、在り方すら判らない若者が多くなっているのを見るにつけ、その原因がどこにあるのかと考えたとき、五感のアンバランスにあるような気がしてなりませんでした。

 昨年の五月頃、修学旅行で来た中学三年生の中に頭髪は三毛、耳と口元にピアスをつけ眼光はうつろな生徒がいました。私が説明している短い間、隣りの者に話しかけています。見兼ねた先生が爪先で注意を促すと、突然立ち上がり大声で「暴力を振るう気か」と叫んだのにはたじろぐほどでした。そんな生徒も森に入り溶岩の上を歩きながら松籟を耳にし、淡い緑の苔に手で触れ、洞穴に入り冷気を感じ、壁や天井の奇怪さに驚いたとき、嬉々として戯れ満面に笑みを浮かべていました。そんなとき、溶岩の上に腰をおろさせ森林の成り立ちやその歴史について話してやると一変して関心を示し、溶岩の上に生きる大きな赤松も、いま触っている小さくて柔らかい苔のお陰で生きているのだと話したとき、彼は大きく頷いていました。

 高度な情報文化によって日常生活はマンネリ化し、疲弊した五感が蘇り自然の美しさが新鮮なものに映ったとき、人間は幸せを享受し自然の尊さに畏敬の念を抱くのだと思います。

 河口湖フィールドセンターは、これからも富士山という自然の宝庫に太古のロマンを求め、人間と自然が共生するための課題を探り環境をとおして教育をする場としたいとかんがえております。

(しのはら しげよし)


   
胎内洞穴入口

河口湖フィールドセンター



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