基盤研究 1
青木ケ原樹海およびその周辺地域における植物群落構造の解明に関する基礎的研究
(H21-H24)

研究代表者
中野隆志  山梨県環境科学研究所植物生態学研究室
共同研究者
茨城大学、東邦大学、静岡大学、北里大学、都留文科大学

研究背景・ニーズ

富士山は世界に誇る山岳であり、その貴重で豊かな自然は県民の大きな財産である。富士山は、火山であること、独立峰であること、標高が著しく高いこと、歴史が新しいことなど他の山岳に比べて特異で、そこに成立する生態系も他の山岳と比較し特性に富んでいる。さらに、富士山にはレッドデータブックに記載された動植物の絶滅危惧種、絶滅危惧植物群落が多く見られる。この貴重な富士山の自然を次世代に引き継いでいくことの重要性に鑑み、本県は静岡県と共同で「富士山憲章」と制定し、「富士山を守る指標」を作成するなど富士山保全対策の推進を図っている。
富士山には、富士山を代表し富士山を特徴づける植生が多く存在することがこれまでの研究で明らかになってきた。青木ヶ原樹海は、貞観の噴火(864-866年)による溶岩流上に常緑針葉樹からなる林が形成されている。また、大室山北斜面は、貞観の噴火による影響を免れたスコリア丘からなり、通称「ブナ広場」と呼ばれ、イヌブナやブナなどの大木が見られる。これらの地域は、国立公園の特別保護地区や特別地域、天然記念物富士山原生林に指定され、学術的にも貴重であり、保護された地域である。
一方で、近年青木ヶ原の特異な景観や洞窟を中心としたエコツアーが盛んになり、年間、2万人程度がエコツアーで青木ヶ原樹海を利用している。さらに、一般の観光客の散策も多く、富士山五合目や富士五湖同様に多くの観光客が訪れる地域である。

これまでに行われた青木ヶ原や大室山北斜面の研究は少なく、フロラの記載や群落の特定、天然林の遷移系列推定に留まっている。先行の特定研究では、エコツアーの影響評価やモニタリングシステムの開発に関する研究を行ったが、その際、これまで報告されていた群落よりも数多くの森林タイプがあることが示唆された。一般に、ツガとヒノキが優占する常緑針葉樹林と考えられてきたが、実際には過去の攪乱の影響を受けた森林や近接する広葉樹林あるいは道路の影響を受けたと考えられる森林などが存在していた。呉ら(1989)では、青木ヶ原の天然林の遷移について沢山の調査を行い植生タイプと遷移の仮説は出されているものの検証はなされておらず、また攪乱の影響は評価されていない。また、調査地の枠が小さいこと永久調査区が設定されていないため、同じ場所での変化を直接調査することが出来ないなど問題点が多い。さらに、これ以降、青木ヶ原に関する最新の知見およびデータは非常に限られている。天然林を含め、これら多様なタイプの森林群落の構造や動態に関する詳細な研究はなされておらず青木ヶ原樹海及びその周辺群落の成立に新たな知見が得られると期待される。

以上のことから、本研究では、青木ヶ原周辺の群落を調査し、群落タイプの分類とそれぞれの構造を解明する。さらに、青木ヶ原の周辺の遷移過程について解明を試みる。

研究目的

富士山の自然を最も特徴づける自然の一つであり、また、エコツアーなどが盛んに行われるなど観光資源としても重要な青木ヶ原周辺の植生の構造と動態を解明することで、富士山の貴重な自然の価値を科学的に明らかにするとともに、青木ヶ原周辺の自然の保護・保全に関する提言を行う。

研究目標

1. 青木ヶ原周辺の植物群落の植物相の解明に関する研究
植物群落タイプごとに植物相を明らかにする。

2. 青木ヶ原周辺の植物群落構造の解明に関する研究
青木ヶ原周辺の植物群落の構造を明らかにするとともに、植物群落ごとに成立要因の解明を試みる。

事前調査

特定研究で実施した「富士山樹木限界付近に生育する植物の環境適応機構の解明」の中でいくつかの知見を得ている。また、呉ら(1989)では、青木ヶ原の天然林の遷移について仮説は出されているものの検証はなされておらず、また攪乱の影響は評価されていない。これ以降、青木ヶ原に関する最新の知見およびデータは非常に限られている。

研究方法・研究計画

1. 青木ヶ原樹海およびその周辺地域の植生の植物相の解明に関する研究

  1. サブテーマ2の調査を行う際に、植物の種類を記載する(H21-24)。

2. 青木ヶ原樹海およびその周辺地域の植物群落構造の解明に関する研究
衛星写真や空中写真、実地踏査をもとに青木ヶ原溶岩流やその周辺地域で、いくつかタイプの異なる林を抽出し、永久方形区を設置し、毎木調査を行うことで、青木ヶ原樹海およびその周辺地域の植物群落構造を解明する。

  1. 衛星写真や空中写真、実地踏査をもとに青木ヶ原溶岩流やその周辺地域の植生をタイプ分け永久調査区の設置場所の決定を行う(H21)。
  2. タイプ分けした植生ごとに永久方形区を設置し毎木調査を行う(H22-23)。
    中野が永久方形区の設置場所の決定や、方形区の大きさの決定などの総指揮を担当し、安田が副指揮権実地調査の代表となり、茨城大学、東邦大学が、常緑針葉樹林を担当し、北里大学、都留文科大学が落葉広葉樹林を担当する。富士山の研究の第一人者である静岡大学の増澤教授は落葉樹林を担当してもらうとともにスーパーバイザーとして密接に連絡を取り、調査・研究をより充実したものとする役割をお願いした。
  3. H23年までの調査結果を基にさらに加えるべきデータを収集し研究をまとめる(H24)。

期待される研究成果

  • 富士山を最も特徴づける自然の一つである青木ヶ原周辺の植生の構造や動態が明らかになることで、富士山の自然の重要性を明らかにすることが出来る。
  • 富士山で、エコツアーが最も頻繁に行われている青木ヶ原周辺で、植生の構造や動態を解明することで、エコツアー実施者はもとより、一般観光客に正確な科学的情報を提供する基礎的研究となる。
  • 富士北麓はエコツアーのモデル推進地区となっているが、エコツアーが最も頻繁に行われている青木ヶ原においてエコツアーを実施していく上での問題点などが明らかになる。
  • 国際的な観光地である富士山の自然を科学的根拠に基づきその価値を明らかにすることが出来る。