実施報告
第20回山梨環境科学講座 講座テーマ 「富士山・甲府盆地の 自然災害と景観美を考える」 2007.05.20 13:15〜16:00 山梨県環境科学研究所 1Fホール 「災害報道とマスメディア」 林 晏宏〔山梨県立大学 非常勤講師〕(元NHK記者) 「最近の自然災害から学ぶ」 池谷 浩〔(財)砂防・地すべりセンター理事長〕(当所客員研究員) |
講座の流れ 14:30〜15:20 講演U「最近の自然災害から学ぶ」 池谷 氏 |
講演の内容 講演T「災害報道とマスメディア」(林 晏宏) 「正しく恐れる」ことの必要性。人命に関わる問題が何事にも増して一番大きなことでマスメディアの即時性を強調。 また家族一緒に居るとも限らないので、いろいろな想定をしておく必要がある。 100〜150年周期が考えられているが、最後の東海地震から152年が経過している。 赤ちゃんでいうと、臨月である。明日起きても不思議ではない。観光地こそ被害想定を知ってほしい。 1 東海地震が怖くないですか? @もし、東海地震が発生したら、富士北麓地域で震度6の揺れがある A過去の東海地震の年譜をたどることで、いろいろなことが見えてくる B明応東海地震による被害(信虎が3歳) C勝山記や妙法寺記の記述による被害状況 8/25大地震による土石流で大半の人が亡くなった。その直後8/28大雨で被害はさらに深刻なものとなった。 「災害は忘れたときにやってくる。災害は忘れたところにやってくる。」 地形・地質・地盤が災害を呼ぶ。時代をさかのぼると同じ場所に被害がある。 過去から洪水が起こりやすいところは古くからの地名を見ればわかる。 神社・仏閣・地主の家など、災害が起こりにくいところに立っている。被害はそれ以外の場所に起こることが多い。 政府の地震被害調査委員会で数日前に発表された結果、30年以内における地震の発生確率は、 静岡が86.5%、甲府82.01%に跳ね上がったのも、東海地震の関わりである。 D 宝永東海地震による被害 1707.10.28 ・河口湖 谷村 震度5〜6 ・前沢 落合 震度6〜7 宝永噴火 1707.11.23 富士山大噴火 宝永山 ・夏ならば火山灰が甲府方面まで降ることになった。 E 安政東海地震による被害 1854.12.23 ・東海地震は必ず山梨に大きな被害をもたらしている ・鰍沢 大津(甲府南部)で震度7 甲府盆地の南部は揺れが大きいうえに、地下水面が高いために液状化現象が頻発しやすい。 ・上吉田 震度5〜6 F 嘉永7年大地震の記録 ・北麓の地震被害が無い ・郡内筋(富士道)は被害が甚大であった 地盤が安定していて家がしっかりしていれば被害は少ないが、それ以外の家屋は相当被害が大きかった G 記述 ・嘉永大地震大津波聞書
2 想定 東海地震 @ 東海地震の震源域が、最近になって見直されて新しくなっている。 それをもとに想定震度分布図を描いてみると山梨県にも震度6〜7がある A 震度6弱 震度6強とは防災対策条例の対象になっている 震度6弱;固定していない重い家具が移動転倒することがある 地割れ・山崩れ 震度6強;固定していない重い家具が移動転倒する 地割れ・山崩れ 昭和56年建築基準法が改定 それ以前に建てられた木造建築の家は耐震診断が無料で受けられる B 県内被害想定 ・死 者 370人 ・重軽傷 6070人 孤立しても生きていく術を持つようにしていきたい。 戦争があっても災害があっても、生き残ってきたからこそ、今がある。 講演U「最近の自然災害から学ぶ」(池谷 浩) 初めは地震で死ぬなんて誰も思わなかったものが、もしかしたら地震で死んでしまうかもしれないと考え始めたのは「知ってしまった」から。災害時にどのようになるか、危なさを知ったうえで回避の仕方を考える。自分だけで考えられない場合は、家族で、地域で議論。そうすることで災害のマニュアルができ、防災の専門家として「自分の生命を守る仕組み」をつくってしまったから再び死なないと考えるようになる。 死なないと考えた最初とまったく違ったのは「地震を知ること」ができ、その対策が立てられているから。 1.災害とは 「異常な自然現象や人為的原因によって、人間の社会生活や人命に受ける被害」のこと 「自然現象」は止められない。災害は自然現象だけでは起こらない。そこに生活している人間に影響があり被害をもたらしたものが「災害」。その災害をなくすには、自然災害の人間社会への影響を防ぐか、自然現象の起こるゾーンから離れるしかない。人間が真剣に考えないと自然災害は無くならない。 2.自然条件と社会条件の現状 @「風林火山」は山は動いているので、そこだけ違う 日本の川は断層のため急流が多く非常に崩れやすい A地球温暖化の影響か、異常気象が異常ではなくなってきている B生活圏が広がって、家が斜面にせりあがって、今までは自然現象であったものが人間生活に影響→災害 3.自然災害の実態 自然災害を防止・軽減するための対応 ・治山・治水緊急措置法(1960〜)の実施 ・マスメディアによる気象情報の一般化 テレビの普及 ・気象情報の解明と予測・予報の進展 自然を完璧に当てるということ(予測)は難しいが、外れてもよかったという予報をすることが大事 4.自然災害を防いだ例 ・堰堤 ;広島で土石流を防ぎ、阿蘇の温泉を救う 5.災害を予測する例 ・シミュレーションマップ ・ハザードマップ 6.具体的な自然災害の課題 @ 豪雨に伴う土砂災害 2003.7 水俣土石流災害 10mもの高台を乗り越えた 河床より高いから安全という神話は通用しない A 地震に伴う土砂災害 2004.10.23〜11.10 新潟県中越地震 芋川流域の主な土砂移動現象 (1)尾根部や崖地肩部からの崩壊(地震応力の集中) (2)流動化した崩壊(地下水等の影響) (3)地すべり、地すべり性崩壊 B 昭和41年9月25日 足和田村土石流災害 川が真っ直ぐ流れていたものを、人間の都合で横に曲げて流している根場地区のほとんどの住民が被災 ・河床の穿掘から考えてかなりの降雨 ・地質 山林の伐採 心の油断 ※ 同じことが繰り返されていないか ・生死を分けたのは「知る」ということ 《21世紀、子孫にすばらしい日本を引き継ぐために、防災は予防が大切》 ・人に命をどのように考えるか ハード・ソフト対策の限界を考えてみんなでやっていくことが必要 7.中山間地域と都市地域の共存 ・災害弱者にやさしい地球を作り、地域を活性化しよう 終わりに 我が国は4つのプレートの境界に位置していて現在も毎日地盤が動いている。そのため地震や火山噴火が発生しやすい。また、地盤変動により構造線や断層が生じていて地質的にもろい地盤を形成している。加えて、最近の地球温暖化に伴う集中豪雨や台風の来襲により多量の降雨がもたらされている。 一方、日本の社会条件として少子高齢化がすすみ、災害時に「逃げたくても逃げられない人」いわゆる災害弱者が増加している。 これら、我が国の自然条件と社会条件の変化をよく知って、安全な国土を創出し、安心して生活できる日本にししていきたい。 みなさんが防災への意識を高くして、話し合いや実践の場面ではキーパーソンとなって地域のリーダーとして活躍していかれることを期待。
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受講者の感想等(アンケートより抜粋) 【 林 晏宏先生の講義について】 ・情報を知ること、積極的に知ること、それが急務だと思いました。さらに、備えが大切。防災グッズといえば食料が(思い)浮かびますが、先生の話では、「三度食べなくても死なないが、トイレは大変だと言われました。ラジオ(予備の電池、軍手、靴下、ズック、簡易トイレ、水を常備しようと思いました。 ・今日集まった受講生100%に近い人々が「自分は死なない」と感じでいることは非常に恐ろしい。「驚いた」と林先生はおっしゃった。東海地震が発生すれば、震度6強、6弱以上の地域は大被害が起きることの確率は高い。また、古い民家が多いところでは崩壊、地すべりで死者は大となる。CATVが倒壊すれば報道による情報は伝わらない。手元には必ずラジオを備えておくこと。懐中電灯、軍手は必要な備品である。自分のことは自分で守るという強い認識を持つことが不可欠と知った。一番恐ろしいのは情報が一切入らないこと。身体の不自由な方々は3名ほどの自分を助けてくれる人をつくることが助かる道である。他人事ではないことを強く知ることを忘れないよう、心に持っていくことを知る。 【池谷 浩先生の講義について】 ・災害を無くすためには、まずは「知る事」とおっしゃったのが印象的でした。家族や地域で議論することの大切さが災害で死なない事に結びつくのですね。また、自分の住んでいる場所の地質・地すべり予想図など図書館や役場に行って調べてみようと思いました。 ・「自然を知る、災害を知る、その上で防災については人間が考えねばならぬ」ことについて大変良く理解できました。特に適切なプレゼンテーション資料に加え、ご説明が大変わかりやすく、講演時間があっという間に過ぎた感じです。地震の予知も重要だとは思いますが、先生のご説明のように過去の歴史、災害に学ぶことも極めて重要なことと確認しました。今後、一層災害についての研究や防災に関し、より良い対応が行われると思いますが、引き続き最新の状況について勉強できる機会をご提供ください。 【講義全体を通して】
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