フォーラム「富士山:世界遺産と環境保全」

第1回フォーラム

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第1回フォーラム「富士山:世界遺産と環境保全」  2006年9月21日開催

                       

○出席者(自己紹介は文末に掲げてあります)

 渡辺 長敬(富士山自然学校代表)

 近藤 光一(富士山登山学校ごうりき代表)

 中川 雄三(動物写真家)

 田村 孝次(カントリーレイクシステムズ)

 井出 泰済(富士レークホテル常務)

 深沢 修(富士エコロ人編集委員長)

  三木 廣(富士山エコネット理事長)

 中村 章彦(富士河口湖ふるさとガイドの会々長)

 荒牧 重雄(山梨県環境科学研究所)

 

○最初に司会者の荒牧が発言.このフォーラムの目的や運営方法について説明した.

その後約2時間にわたって,インフォーマルな討論を行った.以下の概要は,録音記録に基づいたものである.本文末尾に示したように,この会の目的は,自由でインフォーマルな討論であり,この記録の内容に関して,あとから発言の責任を追及されるようなことは無いという了解の元に,自由に発言されたものの記録である.

(前略)

荒牧:この会を提案したきっかけは情報誌『エコロ人』の「世界遺産運動・富士山は最高」という座談会を読ませてもらったのがスタートなのです.ここでおっしゃっていることに関係して,私が言いたいのは,ユネスコ自身がどんどん変わっているような印象ですね.定義が変わりつつある,私の印象だけですけど,自然遺産というのは何か行き詰まっているというか,文化遺産のほうにどんどん行っているような感じがある.座談会で皆さんがずいぶん気にされて自然だ,文化だとおっしゃっているけれど,どうもものの成り行きは自然も文化も一緒になってゆくという方向にも見える.

私の気持ちは,「文化遺産とおっしゃるけど,基本は自然環境でしょう」と言うこと.それはそうだとみんな言うから,その限りにおいて皆さまのこの危惧というか議論というのは,ちゃんと受け止められていると理解していいんじゃないかなと思っています.

私の聞いた限りでは,来年の1月だか2月かに日本がユネスコに提出するそうですから,その前に11月頃までに日本の国内で暫定リストを決めるとか,何かそのような話ですしね.11月に2県委員会の3回目,実際は2回目だけど,委員会をやって,そこで決めてしまう.

中川:あまりにも即席的ですよね.急ぎすぎですよね,それに合わせて.

荒牧:それをおっしゃってください.やめろというのか,では急ぎすぎならどうしろと.ずいぶん急いでいるようですよ.

中川:資料を見せてもらったら,昔の資料をかき集めてそれを統合したような資料になっていますからね.あれをちゃんと今の最新の情報に直すというか,統合するのも必要だと思いますよね.

やってくれればありがたいですね.

荒牧:私の理解では,暫定リストを提案するだけなら,あんまり膨大な作文はいらないと.そこから先が3〜4年かかるんじゃないですか.その間,相当膨大な文章を書くんじゃないかと勝手に理解したのですが,いかがですか.

そんなようなことが口火でございますが,皆さま,あとはどうぞご自由にご議論を.本当に失礼な発言をしますけれど,私はまず理学系の研究者.でも東京の人間で富士山について言えば,自分の商売は別ですが,都会人として見ているから一泊二日で山に登るとかそんな感じの,いわば無責任者ですよ.しかしながらこちらに来て,かなり地元の方とお付き合いをして思ったのは,皆さん何でもっとスピークアップしないんだという気がちょっとするんですね.ですからこれ,絶好のチャンスじゃないかと私は思うんです.少なくとも何かご意見なり,やろうと思っていらっしゃる方があれば.今言えば必ず体制側は耳を傾けざるを得ないんじゃないでしょうか.

もう少し言っちゃいますが,私は石屋ですから山の上のほうに行くと,例えばの話,金名水の辺りにケルンの石を使って落書きしているじゃないですか.あんなのはやめるべきだと思うのに,なぜしないのか.金がかかる.私が自分で行って石を元に戻す気はないんですよ.私,心臓の手術したので上に登れないもので,悔しくてしようがないんですけど.

というようなことがありましてね,いろんな具体的なことを要求というか提案するという今チャンスじゃないかと思うんですね.いずれにせよ,ユネスコに登録の運動するためには,環境保全にこういうプログラムをここまでやりました,これからこうやりますと書く必要があるような印象を得たので,これはやらざるを得ないと僕は思うんですけどね.いかがですか.

三木:我々は権限がないと思うんですよ.自分たちでは今やっている仕事を通じて,たまたまそれがこういう形でフィットしているということもあるんですけれども.権限という意味は,例えば行政であれば一言かければ何人集まるとかそういうことがあるんですけど.各民間団体がうちのほうでそういうことにちょっと興味があるから声をかけると言っても,お互いに知らないわけですね.たまたま『エコロ人』の場合は集まったから分かっていますけど,これが以前の段階だと実績的にはうちでも年間2万人とか100団体とかをずっと7年間続けてきているんですけど,それを他のところが評価してくれてじゃこういう会議に行きなさいということはあっても,我々から主体的に何かをやろうかということはむずかしい.その辺が行政と違うというか,さっき先生が言われた役人とは違うところじゃないかなという.

荒牧:逆に言うと,フリーハンドじゃないんですか.

三木:フリーハンドはフリーハンドですけれどもね.

荒牧:何をやってもいい.

三木:ええ.そうすると,皆さんもそうなんですけれど,自分がやっていること自体がやっぱり手一杯という部分があって,どうしてもこういう会議で集まって役人がやるように十分時間があって,こういう資料をたくさんまとめるとかというのがなかなかやりづらいというところはありますよね.もちろんこういう機会があれば,我々は喜んで出たいとは思っているんですけど,どうしてもシーズンが始まっちゃうと,結局はその実績が認められているという面は非常に感じるんですけど,その辺のギャップというか――.

荒牧:ちょっと私の申し上げたことが間違っていたかもしれません.私はむしろいわゆる地元の関係者みたいな方が集まって,官――お役人に向かっていろんな要求をする絶好のチャンスじゃないかと思う.ただそれだけなんですよ.

三木:そうですね.そういう会議があれば我々も意見を言いますけど.(中略)

会議やる必要ないんです,極端に言うと.

県なんかでも募集されて出るんですけれども,結局はそれは数集めだけで,あとはもう具体的には何もないみたいな.この間の会議とは全く違って――.

荒牧:この前の会議って?

三木:『エコロ人』で先生が読まれた会誌です.

荒牧:ああ.

三木:あの会議というか座談会をやった時は本音がどんどん出てきて,それはどういう本音かというと,行政の人が現場をよく知らない部分を我々はよく知っているわけで.ただ全部知っているわけじゃないですね.うちはこの部分,例えばカントリーレイクさんはこの部分,近藤さんならこの部分という.その部分の寄せ集めというのが非常に一般の強い意見になってくるんじゃないかなという気が.

荒牧:それをぜひおやりいただいたらいかがでしょうというのが私の意見.私のやることというのは,いろんな方に席を提供して集まっていただいて意見交換をと.これは皆さまが主体となって例えば協議会みたいなものができないのかなと.利害の違ういろんなグループが集まってきて議論をする....いろんなところに電話をかけて聞いたんですよ.例えば,「知床で協議会ありますか」と言ったら,ないと.「尾瀬が原でありますか」と尾瀬財団に聞いたら,ありません.それでがっくりきて,これは難しいのかなと思いましたけど,そういうのが私の発想です.

三木:でも言われたように,そういう会議があるとやはり我々も発言の場が出てくるので,そういう意味では自分たちのやっていることが分かっていただけるな,お互いに分かり合えるなという非常にいい結果には私はなっていると思います.

荒牧:私はそれ以上のことを言いたいので,皆さま方がやりませんかと言っているんですよ.私は自分でやる気はないし,私の立場としてもそれはやると官製に半分なりかねないと.

三木:だから自然遺産にしても文化遺産にしても,私自身はぴんとこないというか,今やっている環境保全をしながら観光振興をやって地元密着という,自分ではやっていると思っているんですね.それがある程度成功してそれをやっぱり伸ばすことが必然的に富士山を大事にするということになってきて,その集大成が結局文化遺産であれ自然遺産であれという話になっていくのが,普通の常道だと思っているんですね.それがないと,ただスキル,枠組みだけで.だからこの間も世界遺産の会議を見たんですけど,何の地元とのつながりがない.

荒牧:それは実際どうしてですか.

三木:向こうもこちらへ降りてくれないし,先生が言われたように我々も向こうへ近づけない.

荒牧:そこなんですよ.もう既に河口湖は地元説明会があったと聞いていますけど.

三木:1回だけ.それは忍野村もそうです.忍野村も国立公園の地域外だったんですけど,今回うちも世界遺産のほうには入りたいということですけど,でもそれもやっぱり,本当に入り口のまだ皆が世界遺産か何かも分からない状態ですよね.

荒牧:私が皆さんにお聞きしたいのは,役人さんの立場だったらそうせざるを得ないでしょう,多分.地元説明会をやらないよりやると.1回や2回はいいけど,2回はやりましたけど3回目は忙しくてというようなことになるわけですよ,当然.では今度は受け側というか,その話を聞いた側はそこで質問がちょっと出て,しかしそれだけで終わり.みんな不満な顔をして帰って行き,あとは静かにしているというのでは,これ,だめじゃないですか.ごめんなさい,余計なことを言いますが.

田村:実は先生がおっしゃったことは,非常に痛いところをつかれた訳ですが.

実は僕らが日常活動している全然違った次元で,お分かりのとおり国民会議であったりとかいろんな遺産に向けてのその活動をしている中で,僕らと決して交わる場所が今のところ見出すことができないんですよね.

荒牧:そんなに拒否されているんですか?

田村:いや,拒否されているかどうかは分からないけど,彼らは彼らの役人の仕事がある.ただ僕らは将来的に自分たちの生業にしている自然を使った仕事があったりとか,その結果,実践的な活動で保全に向けたりとかという動きがいいものだと自負している以上,どこかで今の段階で彼ら,実際に遺産の活動を動かしている人たちと接点を持たなければ,もしくは何らかの形で僕らが介入しなければ,絶対最後は後悔するなということは,僕はもうはっきり分かっているんですね.だからどのように介入するかという方法論が実際まだ分からないし,その動きが先生がおっしゃったように協議会であったりとか,いろんなやり方はあるのでしょうけれど,実際そのタイミングを模索しているというか,何かいつも待っているような状態ではありますけど,今回非常に僕はいい機会だと思っているので.

荒牧:ありがとうございます.皆さん,いかがでしょう.地元の熱心におやりになるプロジェクトの雑誌『エコロ人』を見て,これだと思ったんですよね.皆さんにまず,いかがですかとお聞きしたかった.

中村:私さっきから,どういう立場でここに座っているのかなと考えながら,何を話したらいいのかなと.昨日泰済君とちょっと一杯会がありまして,今日こういう話し合いがあるのでどうですかということで参加させていただいているのですけれども.

私は今「ふるさとガイドの会」というのを,今2年ちょっと経ったところなんですけどやっているんですよ.で,河口湖でガイドだったらすごく大勢の申し込みがあるだろうと思っていたのですけれども,全然ないんですよ.

荒牧:それはガイドツアーのお客さん?

中村:はい.田村さんに去年も同じことを言っているので,全然進歩していないんだということになってしまうのですけれども.

甲府にお城を造りましたよね.あるいは塩山に甘草屋敷というところがあるんですけれども,そこなんかはすごくお客さんが来ていてガイドが対応しきれないと.何で河口湖の場合にはその申し込みがないのかなということを考えた時に,やっぱり富士山があって河口湖があって,きれいな富士山と河口湖を見ればそれでいい.それ以上何を学ぶものがあるのかなというふうに考えているんじゃないかと.

荒牧:あまり関心がない.

中村:関心がない.で,私の立場で言うと,そういうことを始める中で,富士山の信仰とか少しずつやっていくと,非常に長い歴史を持って大勢の人たちがいろんな思いを持って富士山に登っているということがよく分かりますよね.ですから,これはやっぱり多くの人たちに知っていただいて,そしてそれが一つの起爆剤になればいいなというふうに思っていたものですから,先生が先ほどおっしゃいましたけれども,世界遺産になるかならないかというようなことは私はあまり関心がない,もちろんそれに反対ということではないんですけれども,世界遺産というものに富士山をしなければいけないというふうには実はあまり考えていないです.

ただ世界遺産になれば,富士山は守られるだろうと.それから大勢の人たちが当然来ますので,その中でいろいろ今僕が考えていることをこちらも勉強しなければならないし,知ってもらえるのではないかと.そういう意味ではやっぱり世界遺産になること自体は決して否定的ではない,私は今,この地の文化財審議委員というのをやっているのですけれども,世界遺産にすることについて,文化財のほうに今どういう進行でどのようなことが問題になっているかというようなことがあってもいいと思うのですけれど,1回も議論の俎上にあがったことがないので.説明会にも行きませんでしたので,どのような現状であるかということが全然分からないんです.そういう意味では今日はこうやって話を聞く中で,皆さんがどのような関心を寄せているのか,どういう問題があるのかというようなことをちょっと勉強させていただきたいというような立場で参加させていただきます.

荒牧:水を差すようで悪いのですけれど,環境保全,自然保護だけに限って議論していただきたいんですよ.皆さま方は環境保全・自然保護にご関心があるだろうと理解しています.それでこの機会をうまく使うお気持ちはありませんかと,こういうことなんですよ.失礼な言い方で申し訳ございません.

中川:今,遺産目録というか,富士山が特異したところを集めているところだと思うのですけれども,それ以前に将来計画が前の自然遺産の時にも出ていたのですけれども,要するに今,管理がばらばらですよね.静岡,山梨,林野庁も環境庁もという形.それの統合がうまくそっちの業者のほうでいっているのかというのと,あと特に住民の説明会の時もどうして世界遺産にしなきゃいけないのか.特に山梨側の場合は人が来るから観光振興だというのが強い気がするんですね,もともと.ただそれは世界遺産の理念からそれが外れていることで,世界に誇るものを万国共通のものにして共通で守ろうということですからね.賛否両論になっちゃうのもどうしてもそっちの利害関係が出てくるからであって,そうじゃなくて利害抜きで保全というか,これを温存してみんなで共有で過剰の利用は控え,利用されていないところは利用しましょうということだと思うんですよね.そういうことであったら,もうそろそろ将来計画,誰がどういうふうに管理して,例えば入山料の問題だとか田地とか景観の問題ですよね.そういうのを具体的に今まとめている行政のほうで案が出ているかどうかですよね.

荒牧:出ていないと思います.

中川:ただ,それが出ていないと非常に弱いと思うんですよね.すごいいいものはこんなにありますだけで,だからどうしたいのかというのを絶対に何か目玉を挙げないと,候補地がいくつかあるところにはその将来まで読んでいるところのほうが優先的に断定者になると思いますよね.

田村:多分,今,中川さんがおっしゃったことが一番キーポイントになると思うんですね.ステークホルダーというか,その利害関係者は,国民会議のように塀の外からお祭り騒ぎで文化遺産にしようと思っている人たちではなくて,やっぱりこの地域にいる僕らだと思うんですよ.それが少なくとも観光振興という言わば不純な目的であったとしても,それは全然否めるものではなくて,むしろ建設的な考え方ではないかなと思っているんですね.なので話はまた戻っちゃいますが,こういったような機会を利用して,いかにこの地域で活動しているそのステークホルダー,僕らが,その活動の中に対面していけるかというところで一番大事なのは,先生がご提案されたその環境保全・環境保護の立場からということでしたら多分話は弾むとは思いますが,環境保護と環境保全を考えながら文化遺産を同時に考えるのは,これまた非常に複雑なご提案じゃないかなという気がしますね.

荒牧:そうですね.私は中村先生に失礼なことを言ったんじゃないかと思って心配しているのですが.世界遺産全体の動きというものについて議論すると大変な時間がかかるということ.私らの手には少なくとも負えない.ここでは環境保全・自然保護について議論をするということでいかがでしょうかと.皆さんにお願いしたいのは逆提案というか,お上にこうやれと言うことも可能なわけですよね.だからそういう方向はいかがでしょうかと.

中川:例えばせっかく通報規制もうまくいっていたんですけれども,拡張する動きがあれば世界遺産のほうに優先的にいっているのに,ついに縮小になりましたからね.

荒牧:期間のことですね.

中川:ええ,期間の問題ですよね.せっかく管理ができているにもかかわらず,結局観光振興ということで.そんなところも何かすごく曖昧な気がしています.

深沢:私,ここ地元以外の部外者の1人で申し訳ないです.『富士エコロ人』の編集をしている深沢です.実はその『富士エコロ人』の特集で先生がご覧になられたその趣旨と言いますのは,やはり皆さまが自然が中心じゃないかというものが前提でありまして今回の文化遺産ですか,それに移行するというのに一つは疑問があったということ.それとあと一つは政府主導と言いますか,行政主導で今回できています.

そういう印象を皆さん,持っていると思うんです.地元の方が今回の文化遺産への移行のことはもとより,世界遺産になったらどうなるのか意外と知らないんじゃないかというところから,もろもろの疑問点が出てきているのだと思います.

荒牧:それはよく分かります.

深沢:それで今,先生は,自然保護・自然保全についてだけお話をしてくれとおっしゃられたんですが,今ふと私がどういうふうに発言したらいいのかちょっと困っているのですが,文化遺産ということで進んでいるわけですよね.

荒牧:はい,そうですね.

深沢:それをここでは自然保護と文化遺産の関係をどのように話せばよろしいんでしょうか.

荒牧:文化的景観とか何とかという定義が,どんどん変わっているという印象です.文化遺産か,それじゃ自然は全然関係ない・・・ということとは全然違う,山はきれいであることが基本で,これは「自然」なんですよ.要するに自然がだめになっちゃったら元も子もないという点は誰でも同意すると思います.その点に関する危惧はあんまりないんじゃないかと.

深沢:その通りだと思います.「自然」がだめだから「文化(遺産)」なんだ,なのではなく,やはり,富士山は「文化」を語る前に「自然」が前提であるという考えが大切だというのが「エコロ人」スタッフの考えなんです.それと実はまだ次回の『エコロ人』に今言ったような話の続きが出るので,実は景観ということで今まとめているところです.文化的景観ということになると,じゃあ富士北麓の景観が今どういうふうになっているのかということを座談会の中で皆さんでお話しされているんです.

それと『エコロ人』の方々,私は編集しているのでちょっと代表して言いますけど,今言ったことはもちろんスタッフの皆さんはナチュラリストですから,そっちが前提になっているわけです.そこで皆さんのご意見を聞くと,富士山の場合は他のものと文化遺産に例え登録されたとしても,必ず自然が前提になってあるんじゃないかと思います.その辺を前提にしないと,単なる文化遺産じゃないんだということですよね.

荒牧:おっしゃるとおり.それはもう大体通る,アクセプトされていると思います.あまりそれを気にすることはないと言うと言い過ぎかもしれないけど,私はそういう印象を持ちました.

田村:まさにその辺が焦点なんですね.僕らの立場から関われると.

特別名勝富士山も含めて景勝地に選ばれて,それは文化財のおかげであったりとか,いろんな法規で守られている部分が少なくともある.これというのは,多分今,県が狙っている浅間神社であったりとか,御師の家であったりとか,人文的なその歴史を持ったものと多分切っても切れないものだと思うんですね.多分それが僕らと関われる,やっぱり自然なしでは文化も語れない部分の大きな接点じゃないかなという気がしますね.

中川:でも一つの例で,例えば県立博物館なんですけれども,あれも自然系の運動が20年も続いて,できたのが歴史系になって――.

そうなんですけれども.今回も詰めて詰めて,でも結局時間が間に合わない,まとめなきゃということになると,最後のそのさっき言った環境保全がまた切り捨てられて,文化財保護という形になっちゃう可能性があり得るんですよね.期限があるからということで.例えば青木ヶ原樹海なんかは本当に非常にすばらしい自然遺産だと思うんだけど,文化遺産に決まった時にあそこの保全とか――.

荒牧:そっちに金が回らないだろうと.

中川:ええ.逆にあそこにいろんな観察施設だとか余計なものが来たりという.自然遺産のほうに圧がかかってくるんじゃないかなという気もしたりするんですよね.

田村:逆にそれって,下手するといいほうに向かうんじゃないかなという気がするんですね.県は文化遺産を盾に多分自然保護も含めた一刀両断しようとしているんじゃないかと.例えば特別名勝の富士山は,途中どこかでいじられちゃったらこれ以上開発されるようなことはないにしても,これ以上自然破壊が進んだりとか何らかの形で下方に行ったとしても,あれがなければ文化も特別景勝地だったりとか,文化的な景観だったりとかというのも守ることができないということになれば,何らかの規制は山にかけるだろうという気はしているんですけど.

中川:それがちゃんと住民に伝わって,県が告示というかそういう意図ですよという,さっき言った文化の根底に自然があるというのをみんなに分からせれば,逆に住民は迷わずに――.

井出:ただそれを最初から実は文化遺産ですよと言っていても,みんな自然を守るためですよという考えの部分も言っちゃった時に,いわゆる開発型に移行するような人たちは,それは困るよということで表向きそれを出しちゃうと進まないということはあると思うんですね.

田村:当然なるでしょうね.

井出:そういった意味では今の文化的遺産的な方向で進めておいたほうが,いわゆる業界的にはやりやすいと.

田村:多分,富士山の本体を無視して文化だけで進むということはあり得ないような気がするんですけど,県がソフトランディングを狙っているなら建物であったりとか,その程度で済むかもしれませんけど,多分そうじゃないんじゃないかなという気がするんですね.先生が危惧されていたのが,特別地域だ,コアゾーンだ,バッファゾーンだと決められてしまうと,自分たちの生業としているような活動ができなくなるのを渡辺先生,危惧されていましたよね.でもそれっていうのは,多分エコ・ツーリズムの考え方も含めて,ちょっぴり観光振興のソースリソースも入っていたとしても,この辺は絶対活性化するわけですよね.ということはエコ・ツアーを中止させるような馬鹿なことは多分ないであろうという気がします.

荒牧:なるほど.その辺,いかがですか.

三木:今の田村さんのご意見ですけど,一つ良くなれば他が良くなる.これは僕らが考えていて,逆なんですよね.例えば今まで自然遺産で富士山が進んできて,これがだめだと.今度文化遺産にしようといった場合に,じゃあ当時自然遺産で問題点があった,例えばゴルフ場だとか演習場だとか,あるいはスバルラインだとか,そういうのは全部どこかにきれいにすっ飛んじゃってその後一切触れないで,ただ今度は文化だ,文化だ,文化だと.浅間神社が文化遺産になったとしたら,ゾーン以外は何をしてもいいという発想になるんじゃないかなという.逆に悲観的に考えちゃうわけです.ここが特別指定地域だと決まったら,その他は何をしてもいい.文化遺産として,浅間神社が決まった場合は,じゃあ青木ヶ原は関係がないと.じゃあ道路を拡幅しようと.田村:でもね,三木さん.半ば常識的に考えて,現行法で今それができないのは明らかなので.開発を助長するような法改正はもう絶対あり得ないと思いますよ.だから文化遺産,自然遺産,何でもいいや,選ばれたとしても,開発を助長するようなことは将来的にあり得ないと思って論じたほうがいいんじゃないかなという気がしますが,いかがでしょうね.

三木:そこがそのとおりだと僕も違和感を感じないんですけど.文化遺産で騒いで違和感を感じるのは,とにかく急ぐでしょう.何を急ぐ必要があるのかと.もっとゆっくりゆっくりその一つ一つの自然の大切さだとかをきちっとしたルールを作って守る,さっき言った法体系もしっかりしていって,その積み重ねの最後にじゃあ文化遺産を持っていこうというのなら分かるけれど,とにかくまず文化遺産だと.そうなった時に,周りは多分どんどん人が増えて――.

田村:ちなみに熊野古道も白川郷も,文化遺産の暫定リストに載っかった時点で都市計画の改正をし始めているんですね.行政はいろいろまたぐかもしれませんけれど,富士山周辺の手を組んだ行政が同じようなコンセプトで都市計画の改正をしようとか,そういうことをやり始めると,それもまたここは規制がかかっていないから何でも建てていいんだということにはならないような網を掛けることだって不可能ではない気がするんですね.多分,包括的にめちゃめちゃいろんなことを包含しながら,僕らは広い意味でこれを考えていかないと,非常にポイントだけを話し合っても何も解決しないというか.

井出:三木さんが言われたように,じゃ自然遺産はあきらめてしまったのかと.だから今文化遺産の方向で行っていることがかえってゴルフ場の問題とか,演習場の問題ということの自然遺産としていく方向と違ってきちゃっているということですよね.10年前と.

三木:私は別に自然遺産でも文化遺産でも両方いいと思っているんですね.遺産になるにはね.ただその使い方ですよね.

井出:やっぱり自分なんかも考えてみたんですけれども,じゃ自然遺産,やはりベースは富士山は自然遺産だということで進んでいこうとした時に,言われたようにゴルフ場とか演習場の問題とかというようなかなり相当な高いレベルのハードルがあるのではないかと.だったら文化遺産という形で登録されてしまったほうが,自然遺産でやっていてももしかしたら何年,何十年かかるか分かりませんという気がするんですね.だったら文化遺産という形で自然遺産になっちゃったほうが,トータル的にはやっぱり保護されていくんじゃないかなと.

三木:であれば,もちろんそれは分かるんですけど.例えば青木ヶ原樹海だとか,他にも自然でまだ,手つかずの自然が残っているところがあるわけですよ.そこをとりあえずは文化遺産と抱き合わせでその周辺も含めてと考えるのは,私は普通の筋だと思うんですね.それをやっぱり「文化遺産だけ」と限定しちゃうと,そこに何か意図を感じるわけですよ,その行政の.とにかく早くしてしまえばと.そこの後ろに出てくるのが,ひょっとしたら観光振興が目的で人を集めるのかという.どうしてもそういう疑問が――.

田村:多分それは間違いないと思いますよ.観光振興ですよ,どう考えても.

中川:やっぱり住民もそれから上の人たちも認識不足なのは,さっきの演習場の問題だけど,自然遺産でも全然問題はないわけですよ.それはエリアリブの問題だし,実際には演習場があることでいろんな自然遺産が守られていますからね.乱開発されずに.だけど大きいのは,今までの世界遺産で,自然遺産を拡大解釈で自然遺産から文化遺産が追加になって複合遺産になったものはたくさんあるんですけれども,先に文化遺産に決めてあとは自然がいいからということで取り込んだ複合遺産は一つもないんですよ,前例が.だから観光振興にしてもそれから純粋な環境保全にしても,両方メリット,デメリットがあると思うので,それをとにかくリーダーシップを負っている県なり国なりがちゃんと将来の方向性を,こっちはこれだけデメリットがあるけどその分こっちが確定して守れるというような.だから両方に曖昧なことをしているうちは,ずっとはっきりしない意見の人が3分の2を占めるみたいな形になると思うんですよね.だからその中間で世界遺産がどうなんだという.これがこうなってこうなるという具体的なことをどんどん確実なところはもう知らしめるというか,住民の総意じゃないところへ推薦できないわけですからね.だから総意というところにするために一つ一つ,次回はこういうふうに考えているというふうな分かっているところをやっぱり県が挙げて,こういう抽象的なものだと分かりにくいとは思いますよね.

田村:先生,ご質問があるんですが.超近い将来的に,県のプロジェクトチームが住民からの意見の吸い上げみたいな仕組みは作ろうと思っているんでしょうか.

荒牧:いや,あるかもしれません.ないかもしれません.

中川:それはぜひ作るべきだよね.

荒牧:ここで皆さんが私に聞けとおっしゃれば聞きます.

田村:じゃ,聞いてください.

中川:ぜひ聞いてください.

田村:問題はですね――.

荒牧:ちょっともう少し具体的に.吸い上げってどういうことですか.

田村:懐疑心を抱いているわけじゃありませんが,そのプロジェクトチームに.何考えているか不安なんです,実は.

荒牧:プロジェクトチームの人,ここに呼べますよ.

田村:ぜひとも.

荒牧:それには少し皆さんの全体のご意見がまとまってこないと.『エコロ人』だけじゃなくて.

田村:ちなみに,どこでもやるパターンだとは思いますけど,行政はあまりやりませんが民間でやるのは.要はプレゼンテーションというか,青写真を見せてもらったほうが論じやすいんですよね.これはこうでしょう,ああでしょうと,当然利害関係者はマイナス意見を言うかもしれないけど,それをなだめてすかすのが県じゃないかなという気もしないでもないし.

中川:業者にね.

田村:ええ.じゃなかったとしたらさっき言ったように公募であれ何であれ,方法論はいろいろあるかもしれませんけど,住民の意見の吸い上げの仕組みを公示してもらえれば.

荒牧:どういう吸い上げを考えていますかとまず質問をして,返事がなかったらここで皆さん考えて,こういうふうにやれと出せばいいんです.私が皆さんに問いかけているのは,「チャンスじゃありませんか」,それだけが中心,今は.

田村:じゃ,ちなみに話のきっかけになるかならないか分かりませんけど,僕が描いている文化遺産があるんですよ,やっぱり.三合目,四合目より上は遠くから見るので富士山の景観的なものは大きな開発がない限り,多分損なわれることはないであろう.そのバックを持った浅間神社とそこに伸びている当時の古道――今2本,3本ありますよね.そんなのが文化遺産のイメージなのね.例えば富士山の山小屋が何か開発しようと思った時,当然特別地域なので環境省から規定もかかっていますし,開発したら問題が起きるのは間違いないですが,逆に白川郷みたいに電柱茶色く塗りましょう,家の看板を茶色く塗ってBSのアンテナまで茶色く塗りましょうぐらいな指示を出すような方向に持っていくとかだと,逆に今よりもっと良くなるけど今の仕事には一切影響がないとかね.だったら浅間神社とバックの富士山はそのままで通るんじゃないかなという気もします.

荒牧:茶色くするとまずいんですか?

田村:いや,茶色くしたらカムフラージュできるじゃないですか.

中川:そのほうがいいということですよね.

荒牧:景観保全になるね.

中川:ただそれを今準備期間の時にできるところからなぜやらないのかということですよね.決まってからやっていくのではなくて,決めてもらうためにそういう積極的な方針を,条例にしても何にしてもね.

田村:ちなみに白川郷もそうですけれど,決まった後に手をかけたところが半分ですって.どうしてかというと,猶予期間をある程度行政が認めてしまった部分があるみたいで,まだ白いパラボラアンテナもあるし.白川郷の中に,あの萱葺屋根の中に.

荒牧:失礼ですけど,139号で4車線のところがあるでしょう.あそこは昔は1列に電柱は全部茶色でいい感じだった.今度来たら,こっち側に白い電柱が立っている.

中川:そうです.富士山側がなぜか南が.

荒牧:東京の玄関口なんだという感じがありますよ.

中川:分かっているのにどうして塗らないのかと.もうあれが十何年です.

荒牧:余計なこと,言っちゃった.

田村:余計なことかもしれませんが,とりあえず電線を這わせるのに建てるのがコンクリート製なんですよ.茶色いのは中,空洞でした.多分,入れ替える作業が事務的にあるんじゃないかなという気がしますけど.じゃあ初めから茶色で建てろと.

荒牧:実は井出さんが重要なことをおっしゃりかけたんじゃないかと思って.そういう開発とかツーリズムのコマーシャリズムとの衝突とか,利害関係とか,やっぱりそういうものがかなりあるんじゃないかと,一般論として思ったんですけど.

井出:自分なんかも観光業界にいますからね.やっぱり観光業界で聞かれる話は,世界遺産なんていうのはやってもらわんでもいいよという,やっぱりそういう話は常に出ますよね.それは結局規制がかかっちゃうから.開発だとか,例えば色とか形とか,増築とか.

荒牧:『エコロ人』としての態度は,規制をかけろと理解していいですか.そういう意味では.

井出:『エコロ人』は規制をかけて,やっぱり継続的な――.

田村:それが社会的な責任だと思いますよ.地域の遺産を――.

荒牧:規制の問題では,ある程度は観光産業も受けて立たないといけないんじゃないかという気がするんですけど,どうでしょうか.

井出:受けて立つというよりも,ここ数十年の富士五湖観光の基調からすると,日本のツーリズムの発展に伴って,マスツアーの受け入れ,生業の為,当たり前のようにお客様の集客の為に規模を拡大するということに注力してきた訳です.それをパラダイムの変換で,見方を変え,今からの世の中の環境保全や環境意識の醸成や,観光マーケットとしての行く末を見据え,ここからどうやって<継続的な観光業=サステーナブルツーリズム>へ持っていけば良いのか?という観点から捉えていくべきチャンスが来ているんだと考えています.

中川:だから理解がされていないということですよね.その差し引きのプラスかマイナスなのか.1%でもプラスであれば反対の人はいなくなると思うんだけど,そこがすごく.

井出:はい.ロングターム

で考えた時にプラスというのを理解していないということです.

荒牧:議論をしたら,少しは理解は進むというふうにお考えですか.

井出:ええ.そういう方向性に持っていきたい.個人的にも.

田村:ちなみに具体的な反対者からの意見というのはお持ちですか?規制だ何だと論じているのは,ちょっとおかしいんじゃないかという気がしますよ.ゾーニングの考え方はここ十数年日本人にも定着しつつあるので,河口湖の街の中の超一級な規制地域になるかと言ったら,それは常識の外ですよ,やっぱり.だからじゃあ誰が観光開発できないからと文句を言うんだろうと考えると,やっぱり他から来る自然豊かなところを開発しようと思っているバカ者がいるわけじゃないですか.でもそれっていうのは,今の法律でもう相当重い規制がかかっているので,意見をするどころの騒ぎじゃないですよね.

荒牧:それでも,ちょっとでも規制されたら嫌だという――.

井出:そういう感情というか感覚というか,それがありますよ.

中川:でも今の規制がちゃんと遵守されていないですよね.いろんな議論にしても.細かいことを見るとその湖畔の理論にしても何にしても.

井出:その辺の遵法精神というか,要するに基本的な継続的な観光というか,そういった考えが――.

(資料配布)

中村:その文化遺産に関わっているのかどうか分からないんですけど,今,富士河口湖町は景観条例を作ろうという作業をやっているんですよ.一昨年山梨大学のNPOの人たちが入って,2年間かな,現状は今どんなふうになっているかということで調べて,今年はそれを皆でまとめて一つ条例に持っていこうということをやっているんです.話を聞いていて,それが世界遺産とリンクしているのかどうか分からないのですけれども,もしかするとそういう形で少し行政のほうが動いているのかなと.全然別なところで動いているのかも分からないですけど.

田村:全然リンクはしてませんですね.河口湖町の住民における自主的な景観規制を彼らはやろうとしている.ただ,今後の文化遺産でも何でも,登録するための一条になるのはたしかだと思いますね.絶対大きな意味合いを持っていると思います.ただそれを本当,今からいろんなファクターでリンクしていけば,非常に大きなかたまりになるような気がするんですけど.

中川:あと短絡的というか単純明快に言うと,自然遺産のほうも力をというか,全く基礎資料がないわけですよね.総合調査がもうすごく古い富士急さんの自然総合調査があるだけで,富士山の自然目録というのは総合的なものは今のところ何一つ多分ないですよね.文化であって,ただしその代わりに富士山特別保護地域が60年ぶりにできたというステップが上がって,今度は文化遺産で文化財の目録を洗い直ししてもらって次の階段登っている.でもそれじゃ絶対に暫定者に入れないからという安心感が保護論者にはあって,2番目の失敗と進歩を見て,次のもっと具体的な世界遺産に向けての運動をしようと思っている人もたくさんいると.

環境保全をしている人たちの場合は,今回の文化遺産で行けるところまで行ってもらって,失敗してもらうことを望んでいると.それが次の大きなステップに.自然のほうで格上げされて文化のほうが全くまとまりがなかったものが,その次の上まで上がったわけですよね.そうしたらこの文化の下に自然があるというので,本当の三度目の正直じゃないですけど,遺産登録に向けての運動が再び起こった時は本物じゃないかという気は――.

要するに,複合遺産が一番ベストだとは思うんだけれども,文化を名乗るか自然を名乗るかにしても,そのステップの中で調和が取れるのではないかという.

どっちも足りないと.自然だけのほうが文化も足りない,文化のほうも自然が足りないということを分からせるために.

荒牧:「足りない」というのがよく分からない.それは保護とか保全の程度が足らん,そういう意味ですか?

中川:……もそうですし,世界遺産としての価値として.

深沢:今,中川さんが言われた“失敗すればいい”というのは,そのステップごとに富士山に対する自然保護の認識が高まるという意味ですね.

ここにいらっしゃる方は殆んど高年齢者ですが,実は若い人の意見というのがあるはずなんですよ,おそらく,若い人の意見はあまり聞いていないと思います.あえて私も自分の息子に聞きました.ちょっと森林生態環境学のことを大学でかじっているので聞きましたら,「お父さん,世界遺産になってどうするの」と言われた.「今まで世界遺産になっているところは,いいところないじゃないの」と言われたんですよね.ですから「何でそんなことをやらなきゃならないの」という意見なんですよ.

それはそれとして,私もこの『エコロ人』を編集する前提として富士山のことをよく知らないと困ると思いまして,図書館へ行ったんです.実に富士山に対して山梨県側の資料が実に少ないということです.むしろ静岡からのほうがあります.山梨からのものは本当にない.びっくりしました.たまたま先日,“富士山を世界遺産にしよう”の国民会議の方が書いていらっしゃる本を読んで・・・.

荒牧:小田全宏さん.

深沢:はい.僕はあれを読んで,よく分かりやすくあらゆる面から書いてくれたなと思ったんです..本当によくまとめていただいて,いいなと思ったのです.富士山というものを世界遺産のこの契機に私も再考してみたのですが,すごく世界遺産として特殊ではないかなと思いだしたんです.

と言いますのは,ある外国の複合遺産がありましたね.

中川:ニュージーランドですね.

深沢:ああ,ニュージーランドのトンガリロですね.あれと似ているんですが,やっぱりちょっと違う.

ある意味では富士山を再認識するのに今絶好のチャンスかもしれません.富士山はかつて信仰の山でもあった.しかし,今は信仰は薄れて,観光ツアーになっていますが,昔から日本の象徴でもあります.

富士山を知れば知るほど今までの文化遺産とやはり違うなという気が段々してきたのです.自然と文化というものが,やはり自然が前提にあるんだと今までの中にはなかったんですね,コンセプトの中には.今までの中に多分なかった.文化は文化だと.これはヨーロッパ的な考えですよね.

私が言いたいは,ユネスコ自身というのはヨーロッパで作ったものじゃないですか.アジアで作ったものじゃないですよね.日本で作ったものでもない.向こうのコンセプトがよく分からない.彼らはどちらかというと,文化というのは自然を征服することが長い間文化だと考え方だったわけですよ.しかし,文化と自然が融合して近年になって文化複合遺産というカテゴリーが出てきた.要するにアジア的な考え方が出てきたのではないかと思うわけです.

ようするにヨーロッパ的思考の限界がこうした型で現されてきた.ですからその日本的コンセプト,“自然があって文化がある”のだということをアピールするにはすごくいい機会ではないかと思います.そういう観点に立つなら,まさに富士山は私たち日本人の文化的象徴として世界へアピールすべきです.そうすれば,うまい感じで富士山というものを日本の中でも新たな文化的価値として再考していくことが出来るのではないかと考えるわけです.

荒牧:私も全く同感です.

深沢:その辺のコンセプトのコンセンサスがあって運動しているのか.単なるお祭り騒ぎでなくやっていけるのか今ひとつ分からない.その辺の姿勢が見えてこないですね.

荒牧:そういうのを言い出されるのは,皆さんみたいな方々が中心だと思うんですよ.

田村:もしかすると環境を伝えながらというか,生業にしていると言うのは失礼かもしれませんが,僕らに共通している考え方の一つとしてこの集まりというかこういった業者は,文化遺産にする,自然遺産にするが目的ではないはずなんです.多分,文化遺産にしよう,自然遺産にしようという活動自体が,最終的に環境保全の思想的なものを向上させたいとか醸成させる一つのツールとして,僕らはこの活動自体を支えていくべきなんじゃないかなという気はしますね.

荒牧:それは皆さん,大体コンセンサスは一緒ですね.

田村:僕はまさにそうです.

近藤:多分ずっと話を戻すと,僕らが一番危惧しているのは何で急ぐのだろうとか,何をやるんだろうというような,僕ら業者ですら全然伝わってこないので,最初に田村さんが言ったように僕らに対するプレゼンテーションがあって初めて「それはどうなんでしょうか」ということが初めて発言ができたりとか.今,私,これだけの資料ですと,この想像の中での話になって,何かよく分からなくなっているんですね.どういうところで僕らがアプローチしていけばいいのかというところがあるので,多分住民に対してもすごい大事なもちろんプレゼンテーションの必要性ってあると思うのですけれども,まず逆に利害で事業者として僕ら意識があるというか,それに興味がある人に対するそのプレゼンテーションをする仕組みを僕らがどう作ってアプローチするかということが,とっかかりのような気がしているんですね.そこから多分世界遺産とはとか,保全とはという話になる気がしていて,ちょっと何か怖いのはどんどんスピードが――.加速しましたよね,

田村:でもそれって,ウエルカムと思うよ,僕は.

中川:例えば土地としてはあわよく熟成できるわけですから.

近藤:そこの要するに交わりという可をどこで僕らがどう作るかということが.そこで造れれば,もしかしたらその話が具体的になっていくような気がするんですね.

中川:あと山梨県の主導はいいんですけれど,今,6市町村でのさっきのネットワークというか,協議会があるかどうかですよね.

それを首長とか,要するに行政レベルででもなんですけれどもね.きっと河口湖でそうやって景観条例とか進んでいても他のところは足並みがそろっていないとか,あるいは世界遺産のプラス,マイナスを考えることも顔を合わせるぐらいまでしかやっていないと思うんですよね.事務レベルでの説明会がもっとあればいいでしょうし,このトップレベルの人たちに世界遺産をめざすとは何ぞやというのをやらないと,足元が空中分解みたいな形になるのじゃないかという気がするんですけどね.

荒牧:皆さまは基本的には環境保全は推進したい.それはもう思い入れは強いんだと理解しているんですけど.だからやっぱり皆さま方のような方がコアにならないという気がするんですね.今が絶好のチャンス.そればっかり言っているんだけど.

田村:先ほど,文化遺産の活動はツールだという発言をさせていただきましたけど,僕らとしては非常にいいチャンスだと思っていることが一つあって.日本人は特に自然保護と,守るか守らないかの二元論でいつも論じると.でも今回は富士山が非常に民族的な部分もあって,人文的なものも全部絡んでいる富士山が文化遺産になろうが自然遺産になろうが選ばれたとしたら,イエスかノーかの二元論ではなくて,もっともっと細分化された意思が働くというか考え方が生まれてくるんじゃないか.それは諸外国でやる復元もあれば,修復もあれば,保護もあれば保全もあれば,緩和措置もあればというような非常に細分化された考え方が生まれる一つのいいチャンスかなという気がしていて,僕らでさえ,じゃあここはどうする,せっかくバッファゾーン,コアゾーンに選ばれたんだけど,じゃあ直そうかという気が働いたりとか.文化遺産というカテゴリーでこの地域は決まったからと,じゃ手付かずかと言ったら手付かずじゃないわけなんです.管理もしなければならないとか,いろんな考え方が芽生える一つのいいアイテムかなという気はしますね.

三木:富士山の場合は,あまりにも人手がもうかかっちゃっているわけじゃないですか.だからさっき先生がおっしゃられた「文化遺産が増えてきた」というのは,自然遺産を世界遺産にするというとやっぱりそこに人が住んでいるわけで,その人との調整とか,さっき言った規制の問題もあるでしょうし,そういうところが結局面倒くさいというか,説得するのに時間がかかるということで.文化遺産であれば建物一つとなればそれほど影響力がないということだと思うんですね.ですからこれで文化遺産に持っていこうという運動があれば,ただ太鼓持って有名人を呼んでムードを盛り上げるよりも,そこに実際住んでいる人間をいかに説得するか.崇高な理念を分かりやすく一般の人にも言う.それから一般の人もその崇高な理念を聞いて自分のわがままを少し抑えようとか,そこら辺に持っていくのが今行政がやるべきことだと思います.

民間であればさっきおっしゃったそういう会議を作るとか,システムを作っていただければ我々はできる限りはそれはやるので.実際にうちの例でいくと2万人,3万人来ているわけで,来ていただいた小学生・中学生にはきれいだなとか,大切にしなきゃいけないなというのは少しでも分かっているわけで,それが5年経てば10万人にもなるしという,そういうことですよね.決して僕は捨てたもんじゃないなと思うのは,若い子供たちが汚いところは知らなくても自然の中に連れてくれば,自然の良さは自然に分かってくるので,ゴミを捨てちゃいけないなとか一番の原点の部分でこういう啓蒙教育をしていくというのはね.そこを一直飛びに文化遺産だと.うるさいからどんどん攻めようみたいな,そこの違和感だと思うんですね.

荒牧:文化遺産,自然遺産という区別は,僕はあまりこれからみんな興味なくなるんじゃないかと勝手に思っているんですけどね,そういう意味では.ですから皆さん方としては,こういうグループはそれを先回りしてやるべきだと僕は思っています.

三木:それは我々がやっていって人数が増えてきた時に行政に言われたのは,「おたくはすごい人が増えてきたから,じゃあその歩道を2倍にしよう」とか,その発想なんですね.青木ヶ原は我々がやりだした頃は,こんな青木ヶ原を持っているからここは発展しないと.「要らない」みたいな.で,お客さんが増えてくると,「あれは立派だ」と.地元の人の自然の宝庫に対する思いがやっぱりまだ足りない部分というのもあるでしょうし,その辺も含めて啓蒙していかなきゃという.ただ我々,偉くないのでね,やっていることでしか証明できないので.

荒牧:エコ・ツーリズムとそのマス・ツーリズムとの関係というのは,僕はあまりそんなところには入りたくないのだけれど,傍で見ているとおもしろいですね.要するにマス・ツーリズムのオペレーターが皆エコと言ってきますから.皆さんはそれに対して反対なんじゃないかなと勝手に思っているだけで,その議論をすると脇にそれるからやめますけれど,結局そういうことも噛んできますよね,どうしても.

三木:そうですね,エコ・ツーリズムは単純に自然保護ですね.これがないとだめなので.それから観光振興ですよね.

深沢:三木さんが言われたことを話し合うシステムづくりですね.それを推進者側がやるべきです.

荒牧:難しいと思いますよ.

田村:多分やってもらえるのを待っていたら,だめですよね.

荒牧:そこなんですよ.私自身はやる気はない.やりませんかと言っているだけです.

井出:本当にこういうメンバーですからということでできればというお話ですから.

深沢:もし世界遺産を推進しているのだったら,そういうことをやるべきじゃないですか.多くの意見をすくい上げない限り運動の広がりはないと思います.

荒牧:役人さん.

深沢:はい.

荒牧:役人さんの腹の中は分かりませんよ,私は.

田村:役人さんならもっと――.

井出:でも相当の予算がありますよね.

近藤:ただ予算を取ってやっているわけですものね.システムがないから,そこ,推進の方法が分からなければね.

田村:多分ね,奴らそんな頭が良くないんじゃないかと.

近藤:それは言い過ぎですよ.そこのハウツーが分からないから,予算があったりとかやろうというのはあるのですけれども,要するにそれを先生が再三おっしゃっているように,例えば僕らサイドから何かのアプローチをしていく必要がある.じゃ,どうしたらいいかと.それが例えばですよ,「エコロ人」という組織,ネットワークでそれを協議会にするのか.だからそこが一歩の取っ掛かりというわけで,それからは多分お仲間がどんどん入ってきて,それがホテル業の方かもしれない.バス業者の方かもしれない.そんなところからズームアップして,そこへプレゼンテーションしていくみたいな.

田村:そこでおもしろいのは,僕ら推進派として名乗りを上げるのではなくて,「考えましょう」の会でいいと思うんですよね.

近藤:そうなんですよね.あんまり堅くしないほうが.

田村:だからいろんな意見があれば,つまり利害の逆の人たちも含めて非常におもしろい展開になると思うんです.

三木:環境保全と自然保護は,皆さん,もうがっちりとあると思うんですね.

環境保全は富士山の頂上みたいなもので,我々はホテル業もいればエコ・ツアーもいれば,写真をやっている方もいる.ただ登山道が違うだけで,めざす方向は同じで,我々が集まったのはいろんな業態で,でもめざすところは同じだろうと.だから我々が組んでやれることは何かという,先生がおっしゃるような最初の集まりだと思うんですね.これが全く全部同じ業界だったらそれだけの意見しか出ないでしょうけど,いろんな人が.だからこの間も話したのは,もっともっと違う業態の人に来ていただければ,誰も自然を壊せなんて言う人はいないわけで,そこを現実といかに折り合いをつけるかという話がもっと具体的に出てきて,じゃあどうしたらいいかというふうになっていくと思うんですね.

田村:いつも多分ネックだと思うんですけど,僕らの気持ちとか声が天と形容していいかどうか分かりませんが,天に届いていないんですよ.その一手段として今回の文化遺産の話はいいきっかけだから,協議会を作りましょうというのをまず考えましょうかということですよね.

日本自然保護協会があるけれど,ここに,文化遺産の活動とは全然リンクしないで,なかなか入ってきませんね.

中川:それは選択でそらしてあるということですよね,今回.

深沢:文化遺産運動のシステムなんですが,普通こういう運動というのは昔から言われているようにオピニオン・リーダーというのが社会の中にいるわけじゃないですか.そういう者が引っ張っていって初めて社会運動になるわけですよね.今の国民会議ってどうなんですか.

荒牧:いや,私,全然知らない.

深沢:その辺が私はすごく疑問を持ちますし,昔で言うところのインテリゲンチャというか,そういう人がある程度引っ張っていきますよね.今はちょっと違うと思いますけど,引っ張っていく層というのがあるはずなんですよ.そういう人がオピニオン・リーダーになって社会運動化して行くのですが,今の状態を見ていると何かその辺がよく分からないというような感じなんですよね.だから社会運動として大きく広がりが出てこないんだという私の意見です.

田村:今回,富士山に関しては非常に大きな金を生む場所であるというふうに考えると,市民活動的に言えば深沢さんがおっしゃったように,市民活動的なものが社会を引っ張っていくのではなくて,本当,ステークホルダーですよ.観光事業者の力のほうが僕は圧倒的にこれを左右する力を持っていると思いますね.

荒牧:だけど私は蟷螂の斧か知らないけれど,世の中そんなものだよと引っ込むにはちょっと悔しい面があるから,皆さんに「どうですか」と言っているんだけど.ちょっとだろうと.実利的という意味は,環境保全にちょっとでもこのチャンスで少し勝ち取るということでもまあいいんじゃないかと.

中村:本当に自然保護とか環境保護ということを皆さんと違って,私の場合考えていないのかもしれないなということを考えるんですけれども.自然遺産にならなかった理由というのは,大体の人はそう思っていると思うんですが,演習場だとか,スバルラインだとか,あるいはゴルフ場ですか.ああいうものがある限りは自然遺産にはならないだろうというふうに理解をしていました.文化遺産でしたらたくさん信仰の拠点だ何だありますので,私なんかここへ来るまでは,そういう文化遺産をどこのところがリストアップされていくのかとに関心があって,皆さんとは全然違う観点でここに上がっているのですけれども.ただ,例えば吉田口二合目のあの小室浅間神社があったあのアマヤですか,もうひどいですよね.ああいうものもやっぱりきちんとした形で保全すべきだし,あそこにはモニュメントを造ろうというので最近鳥居を造っているんですね.こういうところへ後世の鳥居を造っちゃっていいものかどうか.

文化遺産になれば,そういう問題があるところは少なくとも直っていくだろうと.だからいいじゃないかなというふうに考えていました.

逆に言うと,文化遺産にするっていうことがどういうところに問題があるのかということをですね.

中川:聞いたところだと熊野古道が決まって,杉の美林の古道のところを場所によっては非常にすばらしい景観で,多様方に間伐時に雑木を植えたりとかとするのもあったけれども,でもそれが古道に決まっていじれなくなった.その美林を維持するということが必要になって,自然回復ができない場所もできたということは聞いていますけどもね.

中村:そういう意味で文化遺産にするということが,どこに問題があるかというのが私はよく分からないんですよ.

中川:ただ文化遺産にするということは,イコール人を呼ぶという以外にはない.人を呼ぶために,もともとのちゃんとしたものができればいいけれども――.

中村:今テーマになっている,自然保護,環境保護というものが多分崩されていくだろうと.

中川:甲府城だとかの例もあるけれども,完全に復元できないものも人が来るためにある程度のものまで復元しちゃうとかという,そういう尾ひれがついてしまうことが,要するに即席でいいのかということです.もっと長い時間をかけて分かるまで形にしなくてもいいものを,文化遺産を決定させたりとなったために,過剰にそういうところが形を変えてしまうことがあり得ると.

中村:文化遺産そのものにも変な人工の手が加えられるとかという,そういう意見もあるということですね.

中川:そうですね.復元するためのことですよね.

田村:それでいいほうにも,悪いほうにも考えられるんですよね.

中川:そうです.もちろんそうなっていますね.

田村:熊野古道の大失敗は,その管理計画のずさんさなんですね.あれ,3県にまたいでやったことなので,その中心的に管理をするための機関がなかったというのが一つの大きな問題なわけですよ.要は修験道をあれは選んだわけですから,管理計画がずさんだったからがあると思いますね.

三木:先生に言われたこういう会がちょっと違和感を感じるなというのは,今言われたすばらしいところがあるなら,そこを直してから文化遺産に申請したらと我々は思うわけですよ.結局そういうことはやらずに,とりあえず文化遺産だという結論がまず先にありきでそれから直していこうと,結局本当の意味合いとしてはやっぱり人を呼ぶためのという,この疑問がどうしても抜けないんですね.本当に文化遺産にしようと思ったら,まず周辺整備をしていくという,行政を中心にね.それだったらやっぱり地元の人の意見も分かりやすいと思うんですよ.今,先生が言われたような立派なところがちゃんとあるわけですよね.それを地元の人と協力して,少しは行政もお金を出してそういうところからきちっと直していく.

田村:お金を出すのは国民会議ですよ.

三木:どんどん直してもらって.こういう整備ができましたと.これだけの立派なものが元に戻りました.これを守っていきましょうということであれば,まだ一般の理解は得られやすいのですけれど,とりあえず文化財にしちゃってそれから数字も合わせるみたいにやるというのはどうも.

中川:それは本当になれると思っているかどうかですよね.戦略家で,要するに自然遺産できていて文化の点がおざなりになっていたから文化ということでやっといて,さっきのいろんなことを良くしておいて,文化も自然のレベルまで乗せといて,次にやっぱり必要だというふうにするための今のステップ,もう登録は文化ではすぐには無理なのが分かっていてやっていればすごいと思いますけどね.

三木:それはいいほうの選択ですものね.

中村:本当に文化遺産にしたいのだったら,先ほどの二合目の浅間神社のアマヤはあのままでいいんですかと投げかけることは当然ですけれども,百歩譲って私は現状でも文化遺産にすれば,手を加えざるを得なくなるのじゃないかと.その時に僕はむしろ中川さんがさっきおっしゃったように変なふうに手を加える,それを警戒しなきゃいけないけれども,僕はそっちのほうが心配だけれども,登録前に手を入れさせることももちろんいいと思いますけれども,文化遺産にしてしまってから少しずつ手を入れさせるという方向はあるんじゃないかなと思うんですけどね.

田村:それが変か,変じゃないかは,非常に難しいんですよ.価値観の違いで,例えば文化遺産は世界的な普遍的な立場の遺産に選ばれたから,誰もが利用できなければだめ.動く歩道がついたりとか,階段の傾斜が変わったりとかというのはしようがない話で,文化遺産が大事なのか,現状が大事なのかという論点にまたもしかすると行ってしまう可能性もないわけではなくなってしまう.

渡辺:話がどの辺まで行っているのか,ちょっと遅くなって申し訳ないのですが.この間,県のほうでエコ・ツーリズム推進協議会があって,その時に私もよく分からなかったものだから,「どの辺まで進んでいるんですか」という質問をしたんだけれども,はっきり分からないんですよね.で,文化的な施設,例えば浅間神社であったりというふうなものを対象にしていますとは言いながらも,いわゆる特別名勝富士山も含みますという返事が返ってきたんですよ.だとすると,特別名勝富士山というのはちょっと膨大なエリアを含むものだから,これは大変なことだなあと.

荒牧:その上のほうね.

中川:登山道等ですよね.

荒牧:そこはゾーンじゃないんですか.僕は知らないけど.違いますか.

渡辺:その辺もよく分からないんです.もしもそうだとしたらば,まだまだ我々の掌握しているいろんな資源というものが分かっていない.もっともっと基本的なことを,調査を煮詰めて洗い出した上で議論しないと,将来的に我々の子孫まで使っていけるような,利用していけるようなものが使えないような,利用できないような状態になってくる可能性というのが高いわけですよ.

荒牧:私の提案はもっと低レベルで,この運動,世界遺産にしようという行政が主導で乗り出してきたのはチャンスじゃありませんか.少しでもゲインを上げるような方向で皆さん,何かお考えはありませんか,少し手を出す気はありませんかというのが私の提案です.

渡辺:来月号の『エコロ人』の中に多分出てくると思うのですが,私がこの文化遺産ということを考える場合に,富士山南麓も含めて富士山全域の景観というものを非常に大事にしなきゃならないと思うんですよ.

一例として山中湖村の交流プラザというところができて,そこに大堀川があって川があるんですね.その川の淵に東電のほうに電柱がはいっていたんですよ.その電柱を撤去したのですけれども.撤去していただいて景観を良くするのに取り組んだのだけれど,電柱を取っただけでまるで変わるんです.景色が変わるし,人の気持ちそのものが変わってくるんですよ.

田村:ええ.そういうことはいつも危惧されている,その指定されちゃったらどうしようというのを僕らが今この時点でその主導権を取っているところに介入していけば,変わる可能性は秘めているんです.

渡辺:ですね.僕はその文化遺産というものを考えた場合,将来的にもこの景観そのものをもっともっといい形に変えていかなきゃならないと思っているし,それをじゃここでどうしようかということになると,まず一番最初に僕は電柱だと思うんですよ.

人間の気持ちというのは,前が開けてくると発想そのものもまた変わってくると思うんですよ.

荒牧:実は私,東京に住んでいるんですよ.東京は電柱の蜘蛛の巣ですよ.

渡辺:そうですね.

荒牧:あれ,大体日本人の神経というのはどうかしているんじゃないかと思うんだけど.他の国,あんな電柱なんかないですよ.

渡辺:この間,深沢さんにも言ったのですが,もと櫛形町.久々に行ったんですよ.そうしたら町並み,電柱は一切ないですね.驚きました,とにかく.取り組めばそういうことはできるのだろうと思うので.

中村:今,町は大橋通りのところの電柱の撤去をやっていますよね.私は旧登山道のところなんですけど,ちょっと拡幅工事をやりましたでしょう.分かります?

渡辺:ええ.

中村:それで電柱をどかしてくれと.だけど電柱を取るにはものすごい金がかかるので,とりあえず大橋のあの通りを撤去してからだという.だけど,そういう形で呼びかけていくことが大事だと思いますよね.

田村:あれ,待っていても直りませんよ.あれ,言わなきゃだめですよ.

渡辺:やっぱり声を出さないと変わらないですよね.

田村:ちなみに行政もあるお金を利用しているので,その町づくり交付金だったりとかそういうのを使って,名乗りをあげたところからやっていく.じゃないと1区間70万か何かの負担でお金を払わなきゃ.自分たちでやりたいと思っても.

中村:でも田村さんが言うように,言わなきゃ絶対やらないよね.だからとにかく,個人でも言う.

渡辺:以前,立体駐車場の問題があった時に中川さんたちと取り組んだんだけれども,最終的に今の管理センター,あそこだけは何とか作らせてくれという条件だったんですよね.しかもあそこは駐車場の周辺に露天商なんか出ているけれども,これは必ず撤去させろと.

荒牧:今はないでしょう.

渡辺:いや,まだありますけどね.そういう管理を困った時には言うけれども,なかなか積極的に取り組まないというのが現状ですよね,行政そのものも.それは一時期非常に我々のほうからいろんな追及をして.

荒牧:もっと努力すべきじゃないですか.都会人があそこへ行くと汚いと思いますよ.

渡辺:その後,運動そのものが停滞しているので,ものを言わないから変わらないだろうと思うんですね.

三木:ぜひ,私の個人的な意見はやっていただきたいですね.『エコロ人』に今回関わらせていただいたのも,そういう発言の場がある程度の形になって出るという,今までなかったわけですよね.それぞれは偉そうに言っていても,なかなかこういう協議会なんかに出ても,一つの意見としてそのまま取り上げられるということはなかったわけで,こういう民間同士で集まってそれが一つの『エコロ人』みたいな雑誌に出れば,それを先生が見てこういう会議をやっていただいた.発言の場というか発表する場があれば,もっともっと我々がただ言っているだけじゃなくて,少しでも力になればと思います.蟻の一穴じゃないですけど.

荒牧:ありがとうございます.他にご意見,何でも結構ですから.

渡辺:今,自然遺産に向けて取り組んでおられる人たちも含めて,そういったところの考え方をある程度我々のほうに目を向けてもらうというふうな意味も含めていくと,例えばこういったものを公開したらどうですか.

荒牧:最初にお断りしたように,ここでご発言いただいたことは,皆さんのフィルターを通した上で,納得の上で公開させていただきます.それでよろしいですか?

あとお願いは,もしこういうことをまたやってみようというご意見の方があったら,適当な方を推薦していただけませんか.こういう人,どうだと.それで次はこうしたらというような,運営に対するご意見もいただければありがたいです.

三木:それで行政の本音というのは聞けるんですか.我々が突っ込むことによって.我々は大体本音で話していますよね.これが行政の方が来ると――.

荒牧:行政はある意味では建前しか言わないでしょう.

三木:行政には一番最初に言った権限もあるし,力もありますよね.それをうまく我々民間の意見をどこかで具現化していただくというか.

荒牧:私はちょっと意見が違って,市民の方が行政をねじ伏せるというか,そういう方向でやるべきだというのが私の意見です.

渡辺:今までこうやってきているいろんなやり方を見ていると,どうも私も前からいろいろと言っているのですけれども,富士山そのものを行政自体が知らなすぎる.

渡辺:今後,行政自体がどうやっていこうかみたいな議論をすることそのものが,非常に軽薄なものができあがってくるのじゃないかと思っていて,それを防ぐためには何らかの形で民間のよく知っている人たちが動かなければと.

深沢:協議会という話も出ましたけれど,現在世界遺産登録は文化遺産のほうに傾いています.今までのお話しの中に「文化」と「自然」というものが出てきましたが,その関わりが分かっている人がどのぐらいいるかということなんですよね.

荒牧:それは私も分かりませんから教えてくださいませんか.

深沢:もちろん私だって分かりません.

田村:いないと思います.

深沢:その文化というものと自然というものとの関わりが.今回の世界遺産登録では重要なポイントになるはずです.ですからその辺を,例えば仮に「自然を通しての文化のあり方」とか,そういうものをもう少しナチュラリストの人とか実際に実践している方とか,またそれに関係する専門の方とか,そういうような方がもう少し議論をしておくべきではないでしょうか.

荒牧:呼んできて.

深沢:はい.やってもいいんじゃないかなと私は思うですね.

荒牧:それはもう少しオープンな場でもいいから,何かフォーラム,パネルディスカッションとか講演とかね.

深沢:そうです.そういうものを何回か,重ねることによって,世界遺産として富士山の姿が見えてくるはずです.

荒牧:というと,どうしても今ここにいらっしゃらないと言うのだったら,外になりますがそれでもいいですか.外の人間.

深沢:外も,そうですね.

荒牧:住所は東京の人間でもいいと.

深沢:もちろん良いと思うんですよね.

荒牧:いかがですか.私は個人的にも賛成ですけど.

深沢:,やっぱり富士山遺産ということも大切なのですが,その上で議論をするということがすごく大切じゃないかと.その辺が全然なされていなくて,今どんどん進んでいるような気がします.ともかく世界遺産にしてしまおうという感じですね.

荒牧:とにかく賛成です.分かっていただきたいのは,こういうふうに皆さんに声をかけたのは,議論をする場を提供するという意味だから,今おっしゃったことには則っているつもりです.

田村:先生がおっしゃったのは,受動的ではなくてこういうメンバーのように能動的に動きなさいということですものね.

渡辺:細かいことだけれども,例えば世界遺産にして,文化遺産にしていった場合に浅間神社からずっと上っていく古道があるよね.あれは今どういう管理をやっているかというと,重機が入って穴を掘ってマスを造ってというような形で取り組んでいるのだけれども,数年前から話をしたことがあると思うんだけど,いわゆる昔の,古い時代のオテンマというのがあるんですね.勤労奉仕があるんですよ.道つくりというのがあるんです.ああいうものが復活してくるような仕組みづくりというふうなものができあがってくれば,まさにそれこそ自然を保護しながら道路も保護しながら,それが文化的なつながりを持っているというようなものになっていくはずなんですよ.取り組みとしては,僕はその部外者にするということではなくて,するためにどういう取り組みをしなきゃいけないかということの議論が一番大事じゃないかと思うんです.

深沢:そういうことが文化だと思います.

荒牧:ちょうど7時になりましたが,どうしてもというご発言があったら.

三木:じゃ,造りましょうか,協議会.

中村:渡辺さん,あそこの富士山のいわゆる旧道の道は,だいぶ改修していますよね.

渡辺:ものすごくしました.

中村:あれはどう考えれば.私も前の時とあまりに違っちゃってて,上りにくいし.あれはいいものなのかどうなのか.

三木:あれは,またどんどん流れるわけだから,壊れてくるとまた同じことを繰り返すと.そういうものを例えばエコ・ツアーのような形で道づくりツアーのような形で,地域の人たちも含めて子供たちも多様な人たちが参加して砂を運んできて,道づくりをするとか.

中村:,昔は道の真ん中がえぐられていましたよね.,だから非常に歩きにくかった.そういうのを防ぐために,ああいう装置というのは必要でやったのかなと.しかしこれは何だか景観悪いし,登りにくいなと思いながら.

中川:予算と時間の問題ですよ.工法でいっぱいそういうのはあるけれども,その職人が使えなければその期間に予算償却できなかったりするわけだから,管理計画とかそういうことになってくるでしょう.

渡辺:多分,荒牧先生なんかの考え方だろうと思うのだけど,道はああいうふうに改修した.なれど,あのままだとどんどん崩れるわけですよ,流れて.だとするとやっぱり法面を削ってしまっているわけだから,そこの――.

田村:多分焦点は,そういったように思っているなら介入して自然工法でも何でもいいから,提案すべきなんですよ.僕らが多分.

渡辺:そりゃそうだよね.

田村:そのチャンスがない.

近藤:今日,吉田小学校の6年生,馬返しからやって来たのですけど,ようやく地元の小学校ですら登ることが始まったばかりです.だから将来的な理想論として,やっぱりそこにもちろん持っていかなきゃいけないと思いますが,そこへの取っ掛かりを僕らがどう作ってあげるかということですよね.今言ったように介入していかないと,もうどんどん行ていまいますよね.

渡辺:例えば遠足に子供たちが梨ヶ原に行って種を取ってきて,それを法面に播種して捕植して崩れを防ぐような取り組みを,子供たちも一緒に大勢の人が参加してやるというふうなそういうものにつなげていけば.

荒牧:どうも皆さま,お忙しいところ,ありがとうございました.まだ初めてでうまくいかないかもしれないけれど,とりあえず速記録を皆さまにお送りしますので,ぜひ直していただきたいと思います.今後のことはずっとご報告いたしますので,よろしくお願いいたします.どうも今日はありがとうございました.

一同:ありがとうございました.

(終了)

 

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○参加者の自己紹介

渡辺 長敬

 富士に学び,富士を知り,富士と仲良しになる,そんな体験や生活ができたらと考えたのが,富士山自然学校.「知れば,知るほど,深い山・・・それが富士山なのです」.富士山北麓環境ネットワーク理事長,富士山自然学校 代表,環境省稀少野生動植物種保存推進委員,環境省公園指導員,日本洞窟学会会員,富士学会会員,山梨県植物版RDB編纂生物調査委員

近藤 光一

 個人から学校,企業,各種団体などを対象とした富士登山全般のサポートやエコツアーの企画,ガイドを行っている.夏のピーク型登山はもちろん,四季の富士山に迫る登山を実施.総合学習や講演活動を通じて,富士山の現状を発信している.富士山登山学校ごうりき代表,NPO法人富士山サポートセンター理事,NPO法人富士山自然体験活動推進協議会理事.

中川 雄三

 動物写真家.1980年,日本大学農獣医学部卒業後,富士吉田市に移り住み,以後,野生動物の記録写真を撮り続け,人と野生動物との架け橋となるべく自然保護運動に力を注いでいる.環境省・自然公園指導員,山梨県・環境アドバイザー,日本野鳥の会・富士山麓支部副支部長,コウモリの会・評議員などを努め,人と自然との共存を目指して地道な活動を続けている.

田村 孝次

 1997年英国から帰国後,河口湖を基点に様々な人々に対して自然体験活動,指導者養成,企業研修を展開.多元,多様な方法で実践的な環境保全活動や環境保護思想の普及,自然との共生,社会の持続可能性を追求しシステムの構築に努める.

有限会社カントリーシステムズ 代表取締役,NP0法人フィールズ(富士地球教育自然学校)専務理事,NPO法人富士山自然体験活動推進協議会 副代表理事

井出 泰済

 富士レークホテル常務取締役,富士五湖観光連盟青年部理事,河口湖温泉旅館組合理事,富士五湖JCシニアクラブ会員,NPO法人富士山エコネット監事,富士エコロ人発行人.

観光業に携わる傍ら,富士山を中心としたエコツアーの開発や展開を研究している.

ホテルでは,年間100日「富士山自然教室」と称したエコイベントを実施している.

深沢 修

 造形作家.「擬態考」というコンセプトをもとに美術と自然,社会機能との関わりを追求.

2004年,夢紙工房を開設.論考に「擬態考」,「ハザマ」など.NPO街づくり文化フォーラム理事,富士エコロ人編集委員長,山人会会員,山梨デザイン協会会長.NPO芸術文化振興センター理事.

三木 廣 

 早稲田大学卒.社会人生活を経て,平成7年より富士北麓にて民宿経営.平成12年,NPO法人富士山クラブエコツアーセンター長に就任.平成17年5月にNPO富士山エコネットを立ち上げ,平成18年7月理事長に就任.富士山・青木ヶ原樹海を中心にエコツアーを実施.現在までに,小中学生約15万人が参加.環境省自然公園指導員.

中村 章彦

 富士河口湖ふるさとガイドの会々長.古文書を通して地域史の研究を行っている.

荒牧 重雄

 1957年〜2001年:東京大学地震研究所,北海道大学理学部,日本大学文理学部で主に火山学の基礎研究と教育に従事.元日本火山学会および国際火山学会会長,学術会議会員,富士山および浅間山火山ハザードマップ検討委員会委員長,現職は山梨県環境科学研究所所長.富士山世界文化遺産登録推進両県合同会議の二県学術委員会委員.火山災害の防災・減災対策や火山地域の環境保全・自然保護に関心を持っている.

 

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○フォーラムの実施要領

 フォーラムの主体は,複数回の会合及びその記録の公表・出版を行うこととする.会合の性格は,インフォーマルな座談会,懇談会,公開された講演会,パネル討論などさまざまな様式を,状況に応じて適用する.参加者の組み合わせも多様であり,地元一般住民,自然・環境保護の活動家・グループ,地元企業(観光産業を含む),市町村当局,各種団体,県の担当者,国の機関,国民会議の担当者などの中から,適当な組み合わせを拾い上げて,個々の会合を企画する.事務局は,山梨県環境科学研究所に置く.

 会議における発言は自由であり,基本的にはインフォーマルなもので,例えばある機関・団体を代表するという意識にとらわれて,発言が後ろ向きで硬直化するようなことは避けたい.したがって,この会議においてなされた発言は,ある意味で暫定的なものであり,個々の発言の内容について,後になって,厳密さをもって責任の追及がなされるようなことはないという合意が,予め参加者全員によってなされることとする.またこの会議の成果を特定の宣言やコメントとして発表することはしない.