巻頭言

山梨県環境科学研究所の一年を顧みて


副所長 久保田 堯


著者近影

 当研究所は、三つ葉つつじが咲き競い、樹々のやわらかな若芽の緑が映える平成9年4月、「研究」機能を中心に、「環境教育」、「環境情報センター」及び「交流」の4つの機能を有する施設として富士北麓の地に開設されました。

 既に皆様ご承知のとおり、今日、我々が直面している環境問題は、地域での日常生活や経済活動がその一因となっております。また、地球温暖化やオゾン層の破壊などの地球環境問題は、その影響がほとんどの場合において、地域の環境変化として現れています。

 このため、現在では、「地球規模の変化をふまえた地域環境の研究」に加え「地域の特徴をふまえた研究成果を地球規模の検討に役立てる」ことが期待されるようになってきました。こうしたことから、地域における将来の環境変化とそれに伴う問題の発生の可能性について的確に予測することにより、未然に対策を講じていくことは、大変重要な課題であると考えられています。本研究所は、このような時代の要請に応えるべく、「自然と人とが調和した地域」の実現に向け、国際的な貢献も視野に入れた地域環境研究を進めるとともに、県民の環境学習や環境保全活動を支援するために、1年間所員一丸となって頑張ってきました。

 まず、研究部門では、「自然環境研究部」、「環境健康研究部」及び「地域環境政策研究部」の3つの部に所属する9研究室18名の研究者が、国内外の研究機関とチームを組み、将来を見据えて取り組む「プロジェクト研究」、各自の専門分野において必要な基礎的研究に取り組む「基盤研究」並びに緊急の行政課題に取り組む「特定研究」など、所期の目標に向け研究を進めて、その成果が着実に生み出されつつあります。

 次に、環境教育部門では、環境学習室や屋外施設等を紹介した各種広報を行うとともに、児童、生徒や広く一般県民を対象とした「環境教室」、「こども環境講座」など、楽しみながら環境問題や自然について学習できる環境教育事業を展開した結果、昨年1年間で約35,000人の来館者の皆様に、環境問題について関心を持ってもらうことができました。

 また、現在の我々を取りまく環境問題、それに対応するための環境科学の重要性を認識してもらうため、当研究所の研究員を県内の高等学校へ派遣し、講義をする「高校生のための出張講義」を昨年10月から実施したところ、10校からの要請があり、受講された生徒や先生方の皆さん方から「有意義であった」との感想を得ることができました。

 次に環境情報センターでは、研究活動や県民の環境学習、環境保全活動を支援するため、環境に関する図書、ビデオ等の充実、各種コンピュータネットワークの整備等につとめるとともに当研究所の「ニューズレター」の発刊やホームページの開設などによる広報活動にも力を注ぎました。

 さらに、交流事業としては、全国の自治体関係者を募って地域環境研究の在り方について検討した「地域環境研究自治体シンポジウム」や、県民の皆様に環境問題をわかりやすく解説した、「環境科学研究所公開セミナー」などを開催する一方で研究者や環境に関心のある県民の皆さんが広く交流する場として当研究所の施設を利用していただきました。

 以上当研究所発足後の1年間を振り返ってみましたが、当研究所は、ようやくその一歩を踏み出したばかりです。この1年間の経験を踏まえ、今後の当研究所のさらなる飛躍に向けてより一層努力する所存ですが、皆様からの声こそが最大の励みであると考えております。

 皆様の忌憚のない御批判御叱責を頂戴できれば幸いに存じます。

(くぼた たかし)


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