野生動物の調査

動物生態学研究室
今木洋大

 私たち野生動物の研究者は、野生動物のことをいろいろな面から調査しています。その主な目的は、彼らの生活を知ることです。そのために調査道具として「動物に着ける発信機」とそれを受信する「受信機」のセットをよく使います。今回は、私たちが日ごろやっている動物に発信機を着けて追跡する調査。いわゆるラジオテレメトリー調査についてお話したいと思います。そして、その調査からどのようなことが分かるのか知ってもらい、山梨県で現在進めている動物の研究の紹介をしたいと思います。

 私たちは日ごろ野外で野生動物を追いかけています。しかし追いかけるといっても、足で追いかけるのではなく、電波を使って彼らのいる場所を知ることによって追いかけています。そのためにはまず、対象とする動物を捕獲しなければなりません。捕獲には箱ワナやドラム缶を改造したワナを使います。ワナに動物が入った後は麻酔で眠らせ体重や体の大きさを測ったり、遺伝子を分析するために血液を採集したり、発信機付きの首輪を付けたりします。そして麻酔から覚ました後、ふたたび野外に放します。これでいよいよ動物の追跡が始まります。電波が出ている方向が分かるアンテナを動物の方に向けると"ピッピッピッピッ"という強い音が受信機から聞こえてきます。動物のいる方向(電波の強い方向)が分かったら地図上で自分の立っている場所から動物のいる方角に線を引き、同じ作業を2〜3個所でやると地図上に線が交わる場所が出てきます。そこが動物のいる場所なのです。

 今、山梨県ではニホンザルとツキノワグマに発信機を着けて調査をしています(写真)。なぜそのような調査をするのでしょうか。その目的は、野生動物と人間の間で起きる様々な問題を解決することです。山梨県では大型の野生動物による農林業被害が年々ひどくなってきています。その一方で被害をだしている動物たちの生息地も決してよい状態とはいえません。そこで動物たちがどのような場所を使っているのか、一年中同じところにいるのか、それとも季節的に移動してどこか遠いところへいっているのか、被害を出している個体はどんなふうに山を使っているのか、彼らが生活するためにはどんな森林が必要なのか、などということを知って、彼らの生活と人間の生活を両立させることが必要となります。そのためのもっとも基礎となるのが、ラジオテレメトリー調査で動物の位置を知ることなのです。あなたの家の近くでアンテナを振っている人を見かけたらそれはおそらく野生動物の研究者です。気軽に声をかけて動物のことについていろいろ聞いてみてください。

(いまき ひろお)



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