研究室紹介 |
柴田 政章・宇野 忠
生気象学とは、生物・気象学ともいわれる分野で、気象の変化(暑さ、寒さ、気圧、紫外線、湿度等)が人体の機能にいかなる影響を与えるかを研究します。
中でも、地球温暖化や都市化の進展に伴う気温上昇(ヒートアイランド現象)等、環境温度の上昇が住民の生活や健康に与える影響を明らかにする研究が国内外でさかんに進められています。
本研究室では、現在、その代表的な事象である「熱中症」(日射病+熱射病)に関する研究を行っています。実際、夏の気温が高い甲府市内では、1995年には30数名の市民が熱中症にかかり救急車で運ばれています。又、熱中症にかかり易いのは幼児と老人ですが、本県の老年人口の割合が全国平均をうわまっており、その割合が今後急増することが予想される中で、本症の発生率も高くなることと思われます。このような状況から、本県の地域特性を踏まえて本症のメカニズムを明らかにすることは、将来にわたり、住民がより安全で快適な生活を送る上で、取り組むべき重要な課題であると考えています。
その基礎的研究として、現在、次の実験を進めています。
動物を用いて実験的に熱中症を起こし、同時に様々な負荷(ストレス)をかけると、動物の体内に生じている変化をより明確に知ることができます。この目的を達成するため、ウサギの実験的熱中症の前後に「グラム陰性菌」といわれるバクテリアに由来する発熱物質を静脈より投与して、発熱の大きさの変化を比較します。熱中症後に発熱がより大きくなれば、この結果は、動物の菌に対する抵抗力が弱まった、即ち、生体の免疫力が減弱した事に原因すると考えられます。図はこのような実験結果を示しています。よって、熱中症は生体の防御能力を減弱させる事で、些細なことで体の具合が悪くなり、ひいては大きな病につながる危険性を示唆していると解釈できます。
熱中症による高体温は、体の様々な臓器の機能低下を引き起こします。例えば、肝臓が長時間高体温にさらされると、病原体の無毒化や、その他生体防御に必要な物質の生産能力が影響を受けます。この実験では、熱中症のウサギと健康なウサギの血清(血液から細胞成分を除去したもの)を発熱物質と混合して様々な条件下で培養し、その混合物を別の健康な動物に投与して、血清による発熱物質の無毒化が熱中症によっていかなる影響を受けるかを調べます。
今後は、本研究と本研究所の他の研究室で行っている研究とを多角的に連携させることにより、最終的には、本県の地域特性に応じた予防策の提言へと繋げていきたいと考えております。
(しばた まさあき・うの ただし)