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水をきれいにするために


緑地計画学研究室 池口 仁 藤咲雅明


 緑地計画学研究室では特定研究「河川の水質浄化及び自然再生手法に関する研究」として、川の水をきれいにする研究を行っています。ここでは、身近な水を「きれいにする」しくみと私たちの取り組みについて紹介します。

 私たちのところに水をもたらしてくれるのは雨や雪といった降水です。しかし、降水(天水)はそれこそ天気まかせにしか得られません。これでは不便ですので、私たちは降水が集まった地下水や川の水を利用しています。地面に降ってすぐの水はあまりきれいに思えませんが、どうして川などには飲み水として利用できるほどきれいなものがあるのでしょう。

 よごれた水がきれいになるには大きく分けて二つのしくみがあります、一つは水と汚れとを分けるしくみ、もう一つは汚れを分解するしくみです。

 地面に降った水は、地表面の微粒子や、有機物や栄養塩類などと一緒になりますが、水が地面にしみこみ、土の中を通ることで、微粒子が取り除かれていきます。土の中にたくさんいるバクテリアなどの微生物は有機物を餌にして分解します。地中の浅い場所には酸素がふくまれ、酸素を呼吸するバクテリア(好気性菌)の活動が活発です。植物の根もはいりこんで、栄養塩類をとりこんでいきます。また、酸素があまりない地中の深いところでは、酸素以外の物質を使って呼吸するバクテリア(嫌気性菌)が活動し、その一部は窒素化合物を窒素に変えてさらに栄養塩類と有機物が減ります。このように汚れが使い尽くされ、バクテリア自身もこしとられてきれいな地下水になるのです。

 好気性菌は酸素と有機物があると、急速に増え、非常に速く有機物を分解してしまう性質を持っています。これに対して嫌気性菌は、ゆっくり活動しますがいろいろな汚れを分解できるのが特徴だとされます。

 川でも水は酸素を取り込み、好気性菌が活動し有機物を分解します。また、川辺の植物や、川の中の藻類は栄養塩類を吸収しています。そして、川底や川辺に微粒子が付着して水と分けられ、水はきれいになっていきます。川辺の枯れた植物や川底の泥などの形で汚れがたまっていきますが、動物に食べられて分解されたり、大雨のときなどに押し流されて、またきれいになります。

 ところが、現在、特に都市の小さな川が汚れていることが全国的に問題になっています。人が多くの汚れを川に流し込むためです。水量が少ない小さな川では少しの汚水でも汚れの濃度が上がります。汚れの濃度が高ければ、活動の速い好気性菌は水中の酸素を消費し尽くし、水中の動物たちや好気性菌自体も死んでしまいます。残った嫌気性菌だけでは水をきれいにするしくみも弱くなります。川が汚れ、嫌気性菌が中心となって活動すると、悪臭が発生し、私たちを悩ませることもしばしばあります。

 川をきれいにするには、汚水を川に入れないのが一番効果があります。汚水をきれいにする装置として浄化槽や下水処理場があります。ここで使われるしくみも、汚れを分ける・分解するという基本は同じです。下水処理場ではまず流れの速さを調整して、浮遊物や砂を分け、つぎにバクテリアと空気(酸素)を加えて、汚れを分解し、最後に殺菌を行って水を出します。浄化槽も基本的には同じしくみですが、好気性菌を利用するために空気を加えるタイプと、嫌気性菌を使い空気を加えないタイプ、両方の菌を利用するタイプがあり、能力の高い両方の菌を利用するタイプが多くなってきました。

 残念ながら山梨県では、浄化槽や下水処理場で処理された水より、汚れたまま放出される水の方が多いのが現状です。しかし、少しずつ処理される水の割合が増え、県の最近の報告書によると全体として山梨の川はきれいになりつつあるようです。

   処理された水の割合が上がっても、人の密度が高ければ、ある程度の汚れは川に入ってきます。そのため、最近では川の浄化能力を高める試みが全国各地で行われています。いちばん基本的な浄化は、川底や川辺にたまった汚れを除去することです。川の水に酸素をとり込めるように空気と水の接触を多くするような構造物をつくる工法、バクテリアの住み着きやすい炭などをつかった工法、大がかりなものでは、浄化槽と同じものを河川敷や堤防に設置する工法などもあります。  緑地計画学研究室で研究に取り組んでいるのは、甲府市内の濁川です。まさに、都市部の小さな川の一つで、県内の川の中では最も汚れ、気温が高い日には、酸素が足りずに死んだ魚が目立ちます。この川の浄化能力を高めるために効果があるかどうか実際に蛇篭(じゃかご)という構造物を置いて実験しています(写真)。

写真(施工前)
写真(施工後)

 この構造を考えるにあたっては、まちなかから果樹園や田畑のある場所を通って流れる川として、どのような状態が「自然」なのか、そしてその自然な姿の川でどのように浄化能力を高められるかを中心に考えました。せっかく川岸から広い視界で遠くまで見通せるので、コンクリートで固めるようなものではなく、植物が生え、動物の姿も見かけられるような川の姿を保つ事が、まちに近い川では大事だと私たちは考えたのです。

 蛇篭というのは、中にごろごろした石をつめた金属性の籠です。これを河川敷から川の中につきだすように置きました。ねらっている主な効果をあげると、1)蛇篭は水でも空気でも通し、バクテリアも住み着きやすいので、蛇篭の表面では活発に好気性菌が活動する 2)蛇篭の中を水が通り抜けることで、微粒子を分離できる 3)蛇篭が川の中から河川敷の土の中まで連続した酸素の濃度の変化を作り、嫌気性菌と好気性菌の両方が常時活動できる 4)蛇篭を通って河川敷のより広い場所に川の水をいきわたらせ、植物による汚れの吸収を多くできる 5)それまで堤防と堤防の真ん中を流れて変化に乏しかった河川敷に変化をつけ、水中の酸素が不足したときなどの動物の逃げ場をつくる 6)岸辺から植物が川の中に進入しやすい場所をつくる 7)川の流れの遅いところで微粒子が集まるので、そこを中心に作業をすることによって、効率的に蓄積した汚れを除去できる 8)河川敷の環境も変化させ、実験前に河川敷の大部分を埋め尽くしていたヨシ以外にも、栄養塩などをよく吸収する植物がはえてくる などです。効果があらわれるかどうか、わかるのに時間のかかりそうなものもありますが、様々な測定をはじめ、効果があらわれることを期待しています。

 先日実験場所を訪れたとき、流れのゆるくなった所に小魚がたくさん群れ、流れの速くなった場所には大きな亀が泳いでいました。川の生き物にはすでに変化がみられるようです。

 

(いけぐち ひとし,ふじさく まさあき)


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