フォーラム「富士山:世界遺産と環境保全」

第3回フォーラム

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第3回フォーラム「富士山:世界遺産と環境保全」  2006年11月27日開催

                       

○出席者(順不同)(自己紹介は文末に掲げてあります)

渡辺 長敬(富士山自然学校代表)

近藤 光一(富士山登山学校ごうりき代表)

中川 雄三(動物写真家)

田村 孝次(カントリーレイクシステムズ代表取締役)

井出 泰済(富士レークホテル常務)

三木 廣(富士山エコネット理事長)

舟津 宏昭(富士山クラブ 山梨事務所所長)

深沢 修(富士エコロ人編集人)

小野 俊彦(NPO法人アースバウンダー理事長)

早川 宏(富士山の文化的景観を守る会)

三浦 圭治(ffエコ・プランニング代表取締役社長)

渡辺 泉(鳴沢村在住)

梶原 先勝(鳴沢村在住)

三浦 利雄(鳴沢村在住)

小林 利雄(鳴沢村在住)

池川 利雄(NPO法人富士山サポートセンター副理事長)

水越 茂(鳴沢村在住)

北井 清一(富士燃料(株)代表取締役)

井東 健男(カワイスポーツCOO)

小池 久司(自営業 富士吉田市 在住)

流石 恭史(富士登山観光取締役営業部長)

宮沢 雅行(鳴沢村在住)

吉澤 公博(山梨県政策秘書室 政策主幹)

本郷 哲郎(山梨県環境科学研究所)

荒牧 重雄(山梨県環境科学研究所)

 

荒牧:今日の進行は,私もお手伝いしますけれども,田村さんが司会をしていただきます.皆さんにお集まりいただいて,話し合いというか懇談の席を提供するというのが目的です.富士山が世界遺産登録を目指して今動いています.それに関係して,重要なキーワードとして文化遺産がありますが,自然の保護とか環境の保全とか,そういうものが非常に重要であるということが,実際に計画を動かしている当事者の方々もはっきりおっしゃっています.

 そしてこの地域では,既に自然保護とか環境保全に熱心に活動されている方々がたくさんいらっしゃる.皆さんは100%環境保全が満足のいく状態だとは思っていらっしゃらないと思います.少しでも改善するためには,世界遺産登録の動きはチャンスではないかと私は思っています.世界遺産登録の運動というものがここ数年間続くらしいので,その間に関係者が話し合って,少しでも環境保全を改善するということで,注文を付けるという言い方は変かもしれませんが,実際に実行していく方に要請する,ないしはもう少し突っ込んで言いますと,「協議会みたいなものができませんか? 作るつもりはありませんか?」と皆さんにお尋ねしたいと思います.これは私の個人的な考えです.

 私自身はあくまでも東京の人間だと思っています.地元とは思っていません.ところが,3年間ここに職を得て少し皆さんとお付き合いできました.やはり情が移ります.そこで,素晴らしいという地元の富士山というものを考え,やっていく場合に心配なことがあります.富士山を世界遺産にする国民会議というNPOがあります.トップが中曽根さんです.国民会議だから日本中全体が見ているわけです.世界遺産にすると「世界中からいらっしゃい」ということになると私は理解します.そうしますと,世界のスタンダードに合っていますよということです.世界から来るのだから,世界の人々がいいと思わなければ意味がないわけです.そういう意味で,皆さんの思い入れが強い富士山そのものから枠が外れてしまい,下手をすると,自分の手から離れていくという思いがあるのではないかという気がします.そういう時に環境があまり改善されないと,悪い評判ばかりが立つと,例えばトイレ.垂れ流し.....今垂れ流しじゃないですよ,と口を酸っぱく言っても,みんなまだ忘れていない.そういうようなネガティブなイメージで最も傷つくのは地元の方だと思います.それで心配しているわけです.

国の全体から見ると,山梨県も静岡県もないわけです.私のような東京の人間から見ると,山梨の方は静岡について関心が低いですね.不思議です.静岡から見ると,山梨は外国みたいに見えているのかどうかよく分かりませんが,それでは富士山を世界遺産にする動きとしてはまずいと思います.だから,今度静岡の方にも話をしたいと思います.どういう反応をなさるのかまだわかりませんが.

 一方で,私は環境科学研究所という県の施設に非常勤職員で勤めています.今のところ,県が富士山を世界遺産にしようということについては「ああ,けっこうですね」と思っています.うまくやってほしいとは思っています.皆さんの多くも,多分そこまでは同意されていると思います.

 前置きが長くなりましたけれども,これは非常にインフォーマルな会議です.勝手にどんどんしゃべっていただきたいと思います.しゃべりすぎても構いませんよと.そのために,あとでお前はこういうことを言ったじゃないか.けしからんということを追及しないということを,ここで認めていただきたいと思います.私はそういうようなベースで提案したい.

 第1回の会合の時にご注文が出ました.いろいろ分からないところがあるから,県の担当の人に話を聞けないかということでした.お願いしたら,「いいですよ.来ましょう」ということで,今晩来ていただきました.

 ご紹介しますが,吉澤さんです.政策秘書課で,いわゆるプロジェクトチームのメンバーでらっしゃいます. 何か質問があったら,県のやり方について彼がお答えします.ただし,あまり細かい質問をしてほしくない.時間が足りません.細かい話は後からでも直接電話してもらったらいいと思います.

田村: 司会を務めさせていただきます田村です.よろしくお願い致します.

 荒牧先生から今,ご説明がありましたように,今日は世界遺産と環境保全というタイトルで,地元河口湖および,富士吉田であったりとか鳴沢村であったりとか,地元の方々が世界遺産に対してどうお考えになっているのかということについて,ラウンドテーブルミーティングといいますか,円卓会議で忌憚(きたん)のないご意見を聞かせていただこうと思っています.何か合意形成をしたいとか,何か決議する類(たぐい)のものではございませんので,ホットな話題を中心にどんどんご意見をいただければと思います.

 一つご留意いただきたいのは,大きくトピックから逸脱している話であるとか,非常に限られた時間で,もう2時間を切っていますので,マイクはありませんが,マイクを独占するような非常に長いご討論はご遠慮いただきたいと思います.

田村:今思い浮かんだのが2つあります.まず一つは,先だって富士河口湖町長が県の方に申し入れをしました.内容について皆さん,ご存知でしょうか.富士五湖湖水域に対しての文化遺産暫定リスト候補を拒否したということです.真意は非常に複雑で,まだ理解していないところですが,それともう一つは,県の方が文化庁に暫定リストを山梨県側として二十数件出したというものの二つをきっかけに,何か話をしていきたいと思いますが,どちらがよろしいでしょうか.

 それでは,河口湖町の方から聞きたいと思います.ご発言の時はお名前とお住まいになっている地域,おおざっぱで構いませんが,ご職業を言っていただいてから発言をお願いします.

三木NPO富士山エコネットの三木といいます.よろしくお願いします.時間がないので単刀直入に県にお聞きしたいのですけれども,先日,今田村さんがおっしゃった富士五湖を世界遺産に登録するということですけれども,河口湖も反対したということで.あとで朝日新聞の山梨版を読んだのですが,「なぜ世界遺産にするのだ」ということに対する県の答えで「国立公園の今の規制とはほとんど変わらないから」という文面が載っていたことは事実ですか.

吉澤:富士山の価値については,文化的な価値ということなのですが,学術委員会というものを立ち上げまして,その中で検討してきました.それは山梨県の学術委員会,静岡県学術委員会,それからそれよりももっと上部の二県学術委員会,計3つの学術委員会を立ち上げて検討してきました.富士山の文化的な価値というものにどういうものがあるのかということで検討してきたわけです.その中で文化財というものが,文化遺産については条件になっていまして,それも国指定の文化財なのですね.それで国指定の文化財というのは一体どういうものがあるのかということで拾い出しました.その中で,指定にはなっていないけれども,それに匹敵するような価値のあるものがあるのではないかということで,もっと幅広く検討していくべきではないのかという意見が出ました.今は検討段階ですので,ユネスコの方にこれで決まりと言って出すのではなく,富士山というものの価値はこういうものがあるのだということ.今まで検討してきた価値のあるものという中に富士五湖も入っています.例えば,三つ峠,御坂山系,そういったものも入っています.ですから,それは今後世界遺産にするかどうかということを皆さんで検討していきましょうということで,この間提案させてもらいました.

 その時に,河口湖については,そこで生業(なりわい)を立てている人たちも大勢いる,住民の声も聞いていただきたいという話をいただきまして,話を聞いたら,そこで生計を立てている人たちから「今の段階で私たちにまだなんの話もなく,突然世界遺産と言われても困る」ということでした.そういうことであれば,そこに載せた載せないということが,今回の暫定リストという段階では,厳格に議論されるべきものではないと思っていますので,「それでしたらいいでしょう」ということで,今回富士五湖を外した形で暫定リストを出しています.

三木:町長がどういう考えなのか分かりませんが,住民の大反対もあったということで,一番問題なのはそこだと思います.やはりしっかり根回しをするなり,話し合いをしていけば,新聞に出るほどの突っぱね方はなかったと思います.今おっしゃったように,突然そういう話が出てくるということ自体が,われわれも現場でやっていて心配なことです.先に世界遺産ありきで,ここ半年間ぐらいものすごいですよね.とにかく,自然遺産がだめだったら文化遺産にしようということ.第1回のフォーラムにも出たのですけれども,それでは,自然はどこにいったのだとかね.県が直接ユネスコあるいは国に申請するわけですけれども,やはりその辺で,われわれに分かりやすく説明をしっかり事前にしていただくということが一番の基本であり,それが住民との信頼関係につながるのではないかと思います.

吉澤:おっしゃる通りです.私どもも県だけでやっているのではなく,市町村も一緒になって絶えず連携を取りながらやってきたわけです.学術委員会にも出ていただいたり,市町村の方にも入っていただいて,検討しています.ですから,文化的な価値というものについては,皆さんも同じ考えでいるというふうに私どもは思っていたのですが,ただ住民説明というものが,その段階で十分されてなかったというのが事実と思います.ですから急きょ富士河口湖の町長さんからもそういう提案があって,その後河口湖の住民の方に説明をして,その中では「今回載せることはいかがか」という意見が多かったので,今回外したということです.

三木:最初に言った国立公園の規制と変わらないということは?

吉澤:そこまでまだ検討してないのです.

三木:新聞に載っていることが事実とすれば,別にする必要はないのではないかというのは当然住民からは出てくると思います.何のための世界遺産かということなのでしょう.

田村: すいません,大事なことを忘れていました.論じていることは世界遺産の話なので,総論で賛成か反対かというのは,皆さんはオピニオンとして持っていらっしゃることだと思うので,ちょっとお聞きしたいと思います.ただし,世界遺産だ,自然遺産だ,文化遺産だという基礎的な知識に関しては,今回説明は割愛させていただくとして,今,この地域に飛び交っている世界遺産の指定ということに対して,賛成か反対かの挙手をお願いしたいと思います.総論で構いません.どんどん煮詰めていくと,いろんな不具合なことが当然生じることでしょうし,個人的な突出した意見も出てくるので,各論になったら反対という方がもしかしたらほとんどなのかもしれませんが,何に対して反対かということもありますが.今この段階で,この情報が皆さんのお手元にある段階で,世界遺産に賛成の方,挙手をお願いいたします.

 はい,ありがとうございます.

 反対の方?

早川:現在の状況だと反対です.

*****(フォーラム終了後,早川様から追加のコメントをいただきましたので,この報告の最後に追加しました.あわせてお読みください.)*****

田村:はい,総論で構いません.もう一つ選択肢がありますね.迷っているとか,いろいろな理由があると思いますが,迷っている方? はい,ありがとうございます.

田村:今度ご意見をされる時に,「反対派」ですがと言ってください.

 それでは,問題提起として,今は迷っていらっしゃる方.なぜ迷っていらっしゃるのかお聞かせいただきますでしょうか.すいません,小野さん?

小野NPOアースバウンダーの小野といいます.住まいは富士吉田市です.迷っているという言い方か当たっているかどうか分かりませんが,資料をいただいています.提案コンセプト,富士山という資産名称の概要が書いてあるのですが,前回の2回目の時も発言したのですが,なんで世界文化遺産に登録するのか,しなければいけないのかということが今ひとつよく分からない.ただ,世界文化遺産という,これは世界条約ですから,国内法よりもある意味では上位の一つの規制になり,好ましいことだと思うのですが,趣旨が非常にばく然としているわけです.富士山の何を守ればいいのかということです.例えば,富士山というのは日本人にとって文化的に非常に大切な山であるならば,これは中身の問題ではなく,むしろ過去の景観についての問題だと思います.景観の問題ということになれば何を守ればいいのか,何が護るべきボーダーで,遺産登録によって何がクリアできるのかという話になってくる.その辺の一体何を守るために,また何を残さなければいけないのかということが,今の段階では,文化遺産というカテゴライズの中での一つの基準値というのがよく分からないということです.

 日本でも,例えば生物多様性のための戦略みたいなものがありますけれども,あの中にも,自然環境の保全と同時に生産活動としての文化的な側面の両面が維持されて初めて種の多様性は維持されるという考えがあります.文化遺産という一つの枠の中で富士山という環境を考える時にこうした視点も重要であるというような認識もあってしかるべきだというのが一つのストーリーとして,つながるような形で説明があれば,納得できると思いますが,その辺がいまひとつよくわからないです.

ですから,地域住民に対する根回しとかコンセンサスづくりも大切なことだと思いますが,コンセンサスをつくっていく上で,まず何を基準にしたらいいのか,何を基準にしたらわれわれは納得できるのかということがよく見えていないということがあります.だから,賛成か反対かと問われると・・・.以上です.

田村:小野さん,クレームをつけるわけではありませんが,できるだけ皆さんの方に向かってお話ししていただければと思います.

 僕はあくまでも,吉澤さんはオブザーバーとしてとらえたいと思っていて,この場で県に問い合わせてくださいとか,意見を聞きたいとか,それに対して何かを言うという立場ではないと思っています.ですから,今小野さんがご発言されたことに対して,どなたかご意見はございませんか.もうお1人ぐらい,中立的なご意見をいただきましょうか.流石:私ですか.流石と申します.私もやっぱり迷っているのは,自然遺産がだめだったので,では次は文化遺産というような,先ほども言われたように世界遺産ありきで,先ほど小野さんが言われたように基準値というのですか,そういうものがはっきり僕らにははっきり見えてこない部分もあります.先走っている部分が多少あるのではないかと思います.普通の地元に住んでいる方に分かるように,かみくだくように説明してほしいと思います.それがあります.ですから,何を守るべきかというのではなくて,国立公園法もありますし,いろいろな基準があったわけです.それでは,それは今まで何だったのかということです.そのようなこともありますし,もう少し皆さんに分かるように説明してもらいたいと思います.

 それから,私はお客さんにもよく富士山で接しているのですが,ここで皆さんにいうと反発を食うと思うのですが,演習場がありながら,もっとそういうことを解決しなくてはいけないのに,「なぜ世界遺産なんだ?」と,僕は思います.

田村:もうお1人.

舟津NPO法人富士山クラブの舟津です.うちは世界遺産に対して総論賛成,各論反対とかそういう議論以前に,先ほどから話にも出ているように住民説明が全くなされていない中で,国策なのか中曽根さんが生きている間に何とかしたいということなのかよく分かりませんが,そういう形で進めていくのであれば,たぶん進んでいくのであろうと思っています.富士山クラブとして,一市民団体なので,世界遺産にするために活動しているわけではないですし,したからといって活動を止めるというわけでもありません.ですから世界遺産にもしなるんだったらなったで,その中で市民活動を展開していくということが僕たちの活動の趣旨ですし,世界遺産にならないのであれば,なれるぐらいのレベルにまで引き上げていこうと思っているのは私たちの活動です.

 ですから,賛成とか反対とかの議論を始める前に,住民や地元の声が反映されないまま世界遺産になるのであれば,その状況下で私たちはそういう形で対応していくと言わざるを得ないと思っています.今の賛成,反対の挙手のところには「どちらでもない」というところの法に手を挙げさせていただきました.以上です.

田村:今,お話をお聞きしていると,2つの視点があると思います.一つは世界遺産にするか,しないかの論議自体をお役所がやるものだと受け止めていて,それに対して住民がどう動くか.もう一つは,先生がおっしゃったことなのですが,世界遺産をどうにかするために住民が動こうよという2つの視点があるなかで,本来はどうあるべきかというのは,たぶん皆さんはそれぞれ思っていらっしゃると思いますが,もう一度みつめなおして,今迷っていらっしゃる意見を含めて,今後世界遺産を僕らの力でどうするかという話の方向で活発にご意見をいただきたいと思いますが,いかがでしょうか.はい.

北井:すいません,その前に一つ質問なのですが,北井と申します.富士吉田市です.燃料屋です.総論賛成ということで先ほど手を挙げたのですけれども,先ほど小野さんがおっしゃった時の,「何のために」などいろいろと考えることがあるかもしれませんけれども,もし世界遺産にする理由がこちらに全く何もなくて,海外の人間が「富士山はいいから,世界遺産にしてやるよ」と,そういった時に,なにかまずいことがあるのですか? 世界遺産になって何か悪いことがあるのですか?

田村:よろしいですか.

北井:それが分からないのです.

荒牧:何か看板でいいじゃないんですか.

北井:あったらいいと思うのですけれども,だから総論賛成なのですけれども.

荒牧:お金を取られるわけじゃない.

北井:そうです.だから,なんで反対するのかが分からない.

中川:一つの答えしかないと思いますけれども,今ですら流入する人員の調査ができていないですよね.それができていないというのは,どれぐらいの適正な利用者かという観光の規制がないのに,名前だけ出てしまうと,今ですらできないのに,今以上確実に増えて,今まで登録された自然遺産,文化遺産の中でも人の調整ですが,地元でできる態勢があるところで決定されればいいのですが,そうでなければ,調整は絶対にあり得ず,くる者は拒めずという形が一番のデメリットだと思います.特に自然遺産の場合は,それがいろいろな軋轢(あつれき)になるのではないかと思います.

渡辺(長):考え方としては総論的には賛成です.(私は,このまま進んでいくと,仮のものかもしれませんけれども,暫定リストに載せられているいくつかの項目を見ますと,「これだけでいいのか?」というのが直感です.将来的な面まで考えて,将来われわれの子孫が利用していけるような重要な資源というのはまだまだ隠されているというわけです.そういったものが現状の時点で,リストアップされて,それ以外の地域というのは,どうも外れたところに重要な資源があったとしたら,これは大変なことだなというのが実感です.現実問題として,私は鳴沢村の出身ですけれども,鳴沢村の地域内の富士山の領域にも非常に素晴らしい資源が残されているわけです.それがリストからほとんどこぼれています.ということは,この議論を始める以前の間に,いろいろと調査・研究が進められていない部分がたくさんあると思います.そういったところが,われわれの目からすると漏れているわけです.その辺を十分に調査・研究した上で,考えていく必要があるのではないかと思います.あまりにも急ぎすぎているような気がするわけです.例えば,ここ数年の間に決めなければならない問題ではないと思います.

荒牧:いや,あるじゃないですか.

渡辺(長):そうですかね?

荒牧:だって,世界遺産のリストに載るタイミングというのは決まってるじゃないですか.

吉澤:タイミング的には,今が一番いいタイミングではと思います.

渡辺(長):もう一つ.今ここで決められたとしても,それに追加していける部分があるのかどうか.その辺については,われわれには分からないですが,実際問題として将来に向けてもっと有望な資源があり,そういったものを保全していくという意味からも,リストからもれないような形にできないのかなというのが実感です.

荒牧:今おっしゃるのは,リストをもっと増やせということですか.重要なものがいろいろあるよということですか.それは直接言ったらどうですか.悪いけど,ここでそういう議論をしてもらうつもりはないのです.

 私のポイントは,もう1回言いますと,世界遺産は動き出しています.それで,その中に環境保全というものについて立派にやっていると言う必要があると私は思っています.私は東京の人間として見て,もっと環境保全をした方がいいと思うわけです.それで,皆さんは環境保全,自然保護に活動的な方だと理解しますから,皆さんが力を合わせて県などに注文をつけるなり何なり,そういう動きをされるつもりはありませんか,そういう議論をいかがでしょうかということです.

渡辺(長):私が言ったことも含めて,これから先の意見を集約するなら,今後のことを議論していく場というのは絶対必要だと思います.

荒牧:一般ではなく,私の言っていることは世界遺産に関してだけです.だから3年なり5年でこの議論は終わるわけです.皆さんはもっと長い目で基本的な議論をしているのではないかというのが1回目,2回目のフォーラムでの印象です.その後のフォーラムの議論も同様に際限なく広範囲に及ぶのであれば,ちょっと困るということです.ごめんなさいね.非常に失礼な言い方をしましたが.

吉澤:先ほどからお話が出ていますが,富士山が世界遺産になってもならなくても,その価値には変わりないと思います.富士山そのものが持つ価値というのは…….

荒牧:それは人によって違うんじゃないですか.

吉澤:例えば伊勢神宮と富士山がなぜ世界遺産になっていないかということがよく言われるんですね.みんなが本当にすごいものだと思っているものというのは,人から認められなくてもすごいものなのですけれども.世界遺産条約という条約があって,国内法でこれは保全していこうというものについては,世界遺産条約でもって世界遺産として認めているだけであって,新たな規制というものを,それでかけるということはないわけです.条約でもって何かの規制をするというということはないのです.世界の宝というか,世界で稀少の価値のあるものを全世界で守っていこうというのが世界遺産条約の精神です.だから,もともとは危機にあるような遺産をみんなで守っていこうというものです.戦争によって破壊されるとか,あるいはよく言うアスワンハイダムですか,あれでもってアブシンベル神殿が埋まってしまうから,それを移築しようというというのが世界遺産のきっかけだと言われているのですが,そういう貴重な自然遺産なり,文化遺産なりが,この世界からなくなってしまうことを防ごうというのが条約の精神です.

 それでは,富士山もそういう条約で守られている世界遺産に本当にする必要があるのかという議論になっているのだと思いますが,やはり,世界遺産だということによって,地域をみんなが良くしていこうという気持ちというのは,これによって萎(な)えることはないと思います.世界遺産になることによって,みんなが世界遺産を守っていこうと.少しでもいいものを作り上げていこう,いい地域にしていこうという気持ちというものが出てくると思います.ですから,私ども行政とすれば,それは一つの高い目標かもしれないですけれども,富士山にとってみれば高い目標でも何でもなく,本来あるべきものなのかもしれませんが,そういうものをつくることによって,また得る過程で,みんながそれに向かって何か取り組んでいこうというものが出てくれば,地域というのは良くなっていくと思います.先ほど,調査すればもっといいものが出てくるというお話も出ていました.確かに埋もれているものがたくさんあると思います.

 そして,今回の世界遺産というものは,不動産が対象だと.対象はもともと欧米の方の考え方だと,文化遺産という建物だとか人為的に作られたものというのが基本であるということです.この富士山というのはちょっと異質で,自然ではあるけれども,それに対して人間とのかかわりの中でできた価値があるのではないか.信仰とか芸術とか,そういう問題が出てきています.そういう埋もれたものが,この議論をする中で発掘されてくるということも重要だと思います.そして,不動産だけでなくて無形文化財みたいなものですが,こういった価値のあるものもたくさん含まれています,そういうものに光を当てていくということが,世界遺産にする本当の意味だと思います.ですから,世界遺産にすることが究極の目標ではなくて,世界遺産にすることによって,その地域が,富士山のすそ野じゃないですけれども,それがみんなの心の中にそれが染み込んで,少しでも地域を良くしていこう,あるいはいいものをそこから見つけていこうという気持ちを持っていただくための一つの取り組みと思います.

田村:今おっしゃったデメリットを知らなければ,話にならないと思いますので,詳しく話をさせていただきますと,熊野が文化遺産登録になった時に弊害がありまして,地域指定になった中の所有林に手を付けられなくなってしまったとか,合掌造の白川郷です.白川郷は都市計画調整区域を厳しい内容にされたりとか,建築基準が厳しくなり勝手に増改築できなくなったりするなど,強制的ではありませんが,ある程度を暫定期間があって,色を塗り替えたりなど個人的な意に反することも強いられる可能性は過去にあったということだけはお話ししておきます.実際いつも論じていることですが,ここ富士山の近くに関しては,世界遺産になったからといって,もっと厳しくなるということはないと思っていただいて構わないと,僕は思います.そういったことも踏まえた上で,この地域の世界遺産に対して,ほかの方のご意見を.それでは,深沢さん,いかがですか.

深沢:「富士エコロ人」という富士山の自然情報誌を編集しています深沢です.さっき質問といいますか,意見を述べようかと思っていたのですが,吉澤さんが今非常にいいこと言っていただきました.究極の価値というものが,世界遺産ではなくてということを言っていただいたのですが,そのことを言おうと思っていたのです.富士山遺産を契機に地域づくりとして何が出来るかですよね.

総論では賛成です.総論では賛成ということは,世界遺産が全然悪いことではなくて,これはユネスコでやっていることですから,それ自体はどうという問題ではないと思います.ただし,第1回のシンポジウムの時にもいろいろとお話ししたのですが,文化遺産ということで今回進んでいますけれども,「それでは,自然との関係はどうなっているのだ?」ということで,前回も,やはり富士山は自然があって富士山なのだというような意見が出てきました.今文化遺産ということで進んでいますけれども,今日ここでお集まりになった方々はおそらく自然環境関係の方が多いと思います.ですから,僕は総論部分ではおそらく賛成していらっしゃると思いますから,そこで文化遺産の持って行き方,考え方です.それが自然や環境とどのようにジョイントさせて,持っていってもらうかという議論を早くしてもらいたいと思います.

荒牧:今の最後の話,ちょっと理解が届かなかったですが.文化遺産の議論をする時に,環境を…….何とおっしゃいましたでしょうか.

深沢:例えば,只今田村さんの方から話があったように,いままでに世界遺産になったところなども,私が全部見ているわけではないのですが,話を聞くと決していい状況になっているとは思えないわけです.至る所が文化遺産になったために自然が破壊されたとか,そういうところが現実に出てきているのです.単純な話なのですが,そうなっては困るなというようなことがあるわけです.皆さんもそういうことを危惧しているのではないかと思います.

荒牧:具体的には規制をもっと厳しくするとか,新しい規制をかけるとか,そういうことをやれば解決できるのですか.

深沢:そういうことではなくて,その前に自然と文化とのしっかり定義しておかないと,曖昧な規制になってしまうのだと思います.

荒牧:早く議論をしないと,環境保全ができないのではないかというのが私の素人考えですが.

深沢:はい.ですから,例えばここを文化遺産にやったら,その周りのところが環境が破壊されることにならないのかとか,そのくらいのことは議論しておくべきです.また逆に,世界遺産になった場合,地域づくりや環境保全にどう活かせるかを積極的に考えることも必要です.

吉澤:環境の保全という意味で言うと,富士山というのはやはり自然がベースにあって,文化遺産といっても,建物とかそういうものではなくて,やはり自然をベースにした文化財なのですね.だから,天然記念物であったり,それから特別名勝であったり,それから建物と言えば,信仰という意味で浅間神社を入れてますけれども,あとは登山道であったり,富士山原始林であったり,そういう自然がやはりベースなんです.

 文化財というから,普通の文化財と思うと,そうではなくて,やはり自然をベースにした文化財なので,それをいかに保全するのかということです.しかも,保全する仕組みというものが,先ほどどなたかがおっしゃったように,制約というか既に受けているわけです.ですから,それをきちんと保全していくことが,きちっと守っていくというか,きちっとそれを履行していくことが保全につながるのではないかと思います.

 ただ,それだと,今の環境をもっと良くしようということにはならない.今の環境をもっと良くしようとするためには,皆さんがどういう活動されているのかちょっと分かりませんが,例えば,山中のハリモミ純林が今途絶えてきています.それをどういうふうに再生していくのかということです.あるいは湧水が枯渇するような環境については,どうしたら枯渇しないようにできるのかというようなこと.文化遺産とは別に,そういう活動というものをしていかなければならないと思います.一つのそういう運動が,これを機会に出てくれば,それは私たちが望んでいるところであり,いいことだなというふうに思います.

 私が今の立場で,環境について知識もないし,どういうことが問題なのかということも十分に把握しるわけじゃないので,それはまた皆さんで議論していただければと思います.

田村:深沢さん,今回,富士山周辺の文化遺産とはいえ,諸外国では人類に普遍的な建造物みたいなとらえ方をしていますが,幸い,この辺は自然と庶民の文化,人文的なつながりが非常に強いのですね.

 お配りした資料の5ページから9ページに暫定リストの表がございますが,その中の富士山という本体以外の富岳風穴,胎内樹型であったりとか,あと吉田口登山道,船津口登山道などいろいろな暫定リストがある中で,建造物ではない,いわば自然の状態のものをリストに載せたと.それが世界遺産に登録された段階で,管理計画等も当然安定するでしょうから,環境の保全が便乗する形でできるのではないかという部分もあるのです.

 吉田口登山道であったりとか何とかの現状を踏まえて,もし世界遺産になって管理されたとすると,どうなるのかということを想像の範囲で構いませんが,いかがでしょうか.

近藤:富士吉田市の富士山登山学校ごうりきの近藤です.総論的には賛成です.今の田村さんの質問なのですが,吉田口登山道の麓(ふもと)から山頂までエコツアーを実施していますが,周知徹底はまだまだだと思っています.人を受け入れるに当たって,リスク管理上システムトイレ等を含め設備等はまだまだと感じております.もちろん,これを機にその辺の整備が進むことを期待はしておりますけれども,先ほど中川さんがおっしゃったようなデメリットの部分も個人的には非常に心配しております.世界遺産になることによって,人の増加によるストレスがあるのではないかなと思います.現時点ではその辺があまりできていないというか,その辺をいろいろな異業種の方たちの集まりの中で,どういうふうに進めていくべきかをより早くより多く討議する場が必要ではないかと思います.以上です.

田村:暫定リスト6ページの中の13番.鳴沢の溶岩樹型とありますが,鳴沢にお住まいの方々,どのようなご意見をお持ちでしょうか.どなたか.

荒牧:私の商売は火山学です.ざっくばらんに言って,成沢の樹型だけがそんなに世界に冠たるものではないと思います.もちろん立派なものです.だからそういう意味で,お客さんに見せて「ああ,なるほど」というのは構わない.

 ですけど,世界遺産なのだから世界的なレベルでクールに見てほしいですね.

田村:ちなみに,山本知事のお考えになっている「富士の国・山梨」という観光振興も,当然裏側にはそういったような考えがあると思いますが,知事在任期間の中で,もし何らかの本格的な動きになったとして,鳴沢の溶岩樹型が選ばれたら,やはり観光振興的な要素もあるのではないかと私個人では思うのですが,いかかですか,鳴沢の方々.

渡辺(長):田村さん,私も鳴沢です.実は鳴沢の溶岩樹型群というほとんど生活圏の中にあります.鳴沢村の生活圏の中に所在している.そういったものが実際にリストアップされていて,世界遺産に登録された場合に,おそらく,あの領域というのはほとんど手が付けられないような状態になると思います.この中には個人的な所有地もあるのですよ.それについて将来的にどうなるのかという部分をしっかりと伝えてもらうとか,将来こうなりますよというようなものが,一つの形として説明を受けられるようにしておかないと,「そんなつもりではなかった」というということが出てくる可能性があります.

 私はどちらかと言うと,今荒牧先生が言われたことと関連するのですけれども,溶岩樹型としてはそんなに大したものではないと思います.だけど,国の天然記念物に指定されているリストが一つ抜けているのです.

吉澤:ああ,そうですか.

渡辺(長):はい.富士吉田市にある雁ノ穴樹型群が抜けています.そこには今墳墓山,棍棒山といわれているホルニトに近いようなものがあって非常に珍しいものです.どちらかと言うと,そちらの方が世界的な遺産としては価値が高いのではないかと思っています.

 ただ,私の冒頭言ったのも,そうした有効な資源というものがたくさんある.そういったものをもう少ししっかりと見ていく必要があるのではないかということを申し上げたわけです.

田村:鳴沢にお住まいの方々には,非常にご自分の生活圏に近い,富士山を全体から考えて世界遺産となると非常に重たい話題になってしまうので,お近くにあるものがもし世界遺産になったとしたら,どうなるのだろうということを考えるきっかけになればと思いますが.

吉澤:今のお話なのですが,生活に支障が出てきたら困るというお話ですよね.今後,保存管理計画というものを作っていくわけです.それは一つ一つの資産について,保存管理計画というものを作っていく.そのときに,どこまで保存し,どういう形で保存していくのかということを一つ一つのものについて細かく検討していきます.ですから,生活に支障がないように.ただこの天然記念物を守っていかなければならないということもありますので,その中で,住民との話し合いというものは必ずしなければならないことなのです.地元の市町村が中心になってつくるのですけれども,やはり県もそこに行って説明させてもらったり助言したりして,いろいろとお手伝いできることはしていきたいと思います.

 それから,ここに抜けている場合であっても,それは貴重なものであるということが確認できれば,付け加えることも可能です.ですから,富士五湖が暫定リストから除かれたといっているのですけれども,地元の方から,むしろ富士五湖を入れてもらいたいというような動きが出てくれば,また検討していかなければならない.ですから,ここに載っているものがすべてということではなくて,これはあくまでも,素案にも書いてあると思うのですが,重要な資産と思われるものを一応リストアップしているわけで,それがすべではないし,それがすべて世界遺産になるわけでもありません.そういうふうにご覧になっていただきたいと思います.

渡辺(長):そういう意味で,これは私が勝手に判断したのですけれども,一部演習場の地域内にあるのです.そういったことがあって,省いたのかなと思ったのですが.そうではないということですか.

吉澤:雁ノ穴というのは,そうすると演習場の中にあるのですね.

渡辺(長):一部演習場の区域内にあります.

吉澤:そうすると,資産としてのバッファゾーンが取れないですね.

渡辺(長):その辺は分からないですけれども.

吉澤:演習場によって守られていると言えば守られている部分があるのかもしれないですけれども.国内法によって守られている,あるいは条例によって守られているというのが一つの基準になっているんじゃないか.そういう仕組みのないところというのは難しいですよね.

田村:はい.いかがでしょうか,世界遺産に…….

小野:いいですか?

田村:はい.小野さん,どうぞ.

小野:先ほど賛成か反対かというところ話から,また出たのですが,私はあえて保留というふうな意見を出したのですが,皆さんの意見を聞いていると,やはり2つあると思います.文化遺産になれば,先ほど吉澤さんもおっしゃいましたけれども,きれいごとで言えば日本人の心のふるさとと言いますか,心のよりどころだった富士山にゴミを捨てるなんてとんでもないばちあたりだと私は思いますが.そう思わない人間が実際増えているわけです.ですから,そういう意味で,世界の文化遺産になるほど富士山というのは貴重なものなのだ.だから皆さん,守っていきましょうよというモチベーションをための一つのきっかけ作りとして文化遺産になるということについては賛成だということはよく分かるのです.一方で,それでは今の富士山の現状はどうだということを話したときに,こんなていたらくな富士山でも文化遺産になれるのだと言うと,一方では免罪符的な現質を与えてしまうということもあり得ると思います.その辺の葛藤だと思うのですね.

 先ほど「保留ですよ」という意見の中で,あえて吉澤さんに申し上げたのは,いわば一つの価値判断,それから世界遺産の中にはいわゆる危機遺産というものがあり,富士山は文化遺産よりはむしろ危機遺産に近いという気がするのですが.危機遺産ということであれば,世界中の耳目を富士山という場所に集めて,やはりきっちりとした形で日本人が責任を持って富士山というものを将来こうしていくんだというビジョンが,文化遺産のリストに載っけるという一つのテーマの中に盛り込まれていれば,納得できるのです.はっきり言って.

 だから,その辺のところが抜けていて,「富士山はすばらしいよ」というような一つのお題目しかこの中には書いていないような気がするわけです.それでは,このままで本当にいいのだろうか,これだったら,お題目のきれい事と現実との間にあるかい離があまりにも大きいのではないかと思います.

 そういう中で,総論賛成かどうかといわれると,総論でやはり「保留」という以外に言いようがない.だから,その両方のいわば功罪を併せ持つのが今回の世界文化遺産の登録なのだろうと思うわけです.それを私たちがどう判断して,荒牧先生は,「自分たちができること言ってみろ」と盛んに焚(た)きつけるわけですけれども,そこで何ができますということは言えないのは,こういった形の中で素案が出てくると,それでは,文化遺産にして,富士山にとって何がいいことがあって,その一つの価値判断というのは何だったということ.ここに並べてあるリストというのは,国の方で把握している文化財や天然記念物だけでいいのかという意見が出てくると,まさにそこだと思うのです.つまりよく基準がよく分からない.

田村:たぶん1回目,2回目のフォーラムで同じように討論されていることだと思いますが,県が,あるいは国民会議が先導して世界遺産の動きをしているというのを,僕は今の段階では塀の外から見ているわけです.そうかと思えば,それぞれ皆さんはご意見を持っているわけです.ただ,そのご意見が決して,それらの動きに反映しない立場に今,僕らはいるわけです.この会の趣旨というのは,実はやはりみんなで力を合わせて,どうにかなるか分からないけれども,意見を出せる立場になろうというのが荒牧先生のお考えで,塀の外から文句ばかりを言っているようでは,たぶんいつまでたってもご自分の意見は反映されないでしょうし,自分が描いているような世界遺産にはならないはずなのです.ただ,こうやってある一つの目的をもとに集まった方々で,何らかの協議会みたいなものをつくると,もしかすると,今の動きに反映できるような意見がこの中から生まれたり,この会自体にもしかすると力がつくかもしれないということです.小野さんが言うように「勝手につくりやがって」という考え方もありますが,「これをもとにしてみんなで考えよう」と,県につくってもらったと考えれば,話もしやすいのではないかという気がしますが,いかがでしょうか.

 非常に大きな労力を使って県にやっていただいた.これについて積極的に話せばですね.はい.

北井:先ほど発言した北井と申します.具体的に地元の利を含めた意見を申し上げますと,この地域で,環境に悪いというか,地元の人も不便していているのは,やはり交通関係が非常に不便であって,車も渋滞していて良くない.せっかく世界遺産になるのであれば,この前テレビでやっていたので,モノレールがすごく安価にできて,非常に環境に優しいとか言っていたので,富士五湖地域に全部モノレールを敷いてもらって,車の台数を一挙に減らす.そうすると,住民にも非常にメリットが出て,国に対して訴えて,国の金でやってもらえれば.非常にありがたいと思うのですけれども,そういう大胆な意見でもいいのでしょうか?

田村:たぶん,国には一銭も予算はないと思います.出せるのは…….

荒牧:私はそういう話がどんどん出てくればいいと思っています.

渡辺(長):たぶんこのままいくと,おそらく文化遺産登録という方向でどんどん進むはずですよね.そうした場合に,みんなでデメリットの部分を解消できるような方法を議論するような場をつくったらどうかというのが私の提案です.

荒牧:いいですね.賛成です.

渡辺(長):何らかの形で声を出さないことには解決しないはずです.だから声を出せるような場をつくる.その場というのは,デメリットをどうしたら解決できるかということを議論し合う場があって,こういう部分はこういうふうに解決するというような議論ができる形の場をつくりたいですね.

荒牧:私の提案は山梨県だけじゃない.世界遺産国民会議,山梨県と静岡県以外の人々は富士山は一つだと思っている.絶対,静岡と一緒にならないとだめだと思います.それ以外のことは今のご発言にまったく賛成です.

田村:世界遺産の話ではだいぶ盛り上がっていますが,自然遺産に関しては,どなたか.文化遺産で動いているけれども,「それでは自然遺産ではどうなったんだ?」と思っていらっしゃる方もいると思いますが,その前に複合遺産というものがありますが,中川さん,ご説明いただきますか.

中川:自然と文化は両方兼ね備えたものが全部の遺産の20分の1ぐらいあります.登録手順のことは全然関係ないですけれども,たぶん付則としては,自然遺産であったものが文化遺産も追加されて複合遺産になった例はありますけれども,文化遺産だったものが,自然が追加されて複合遺産になったものは今まで前例がないということぐらいです.

 先ほど説明があったように,今記念物が中心になってきているので,ピンポイントとしてはそこだけの自然環境は文化とうまく調整が取れる可能性はあるとしても,ピンポイントであって,そうしたゾーンをつくった際の線の連結というのは,その後自然遺産も追加してこないと,あるいは今の規制の中で拡大解釈していかないと,結局は自然の方は守れないと思います.だけども,決まったら決まりっ放しではなくて,改正ごとに審査されているわけですから,僕も「総論で賛成」というのは,とにかく動き出してみないと,悪いところが出てこないだろうと思うわけです.ですから,想定できるいいところや悪いところは注意させることも大事ですけれども,できるところで規模縮小してでも,世界遺産である必要はないのですけれども,モデルケースみたいな形でまず一石を投じ,そこから少しずつでも付け足したり,整合性を図っていくことができたらと思っています.それにしても,地元で行政に対してもリアルタイムで声が出せる場所というのは,管理体制をつくるときに必要な大きな団体になるのではないかと思います.

田村:いわば自然遺産に固執する必要は実はないということなのです.だからこそ,こういった職業のような人間たちが今ここに集まって,題も「世界遺産と環境保全」というタイトルでありますので,話は戻ってしまいますが,何らかの動きを会全体でというか個人ではなくて,ひとかたまりになってやっていこうじゃないかという荒牧先生の…….

荒牧:やっていこうではなくて,私が中心になってはやりませんよ.

吉澤:先ほど,モノレールの話が出ましたけれども,富士山の環境ということを考えるときに,どういう交通体系がいいのか.世界遺産の運動とは別に,それはそれとして一つ違うそういう運動というか,そういうものが必要なのです.だから,「いや,それも富士山の環境を守るためにやることなんだよ」ということがみんなに理解され,重要なのだということが分かってくれば,みんなで取り組む.例えば,「ここに走っている車は全部CG車にしよう」と.「富士山麓を走っている車はガソリンではないですよ」と.そのような運動が仮に出たとすれば,それもすごいことだし,車を減らすというそういうことも,今の世界遺産ということの一つの契機になるのではないか.

 世界遺産になっているよその国の例を見れば,確かにみんな必死で守っている.破壊されそうなものを必死で守っているという感じがあるのです.富士山もやはりみんなで守っていこうという意識を持って守らないと,やはりこれだけ大きい自然だから何もしないで,自然に守られるかというとそうでもないと思います.ですから,何らかの形で人がそれを守っていくという行為がないと守れないわけです.

 そのために何をするかということなのだけれども,それは今の世界遺産にしようということとは違うのだけれども,根っこはそこを目指す,そういう動きが出て来ることが本当の地域づくりというか,富士山を中心とした地域の人たちが考えることではないかなと思います.

田村:ちなみに,僕も「総論賛成派」です.観光振興であったりとかいろいろな目的で世界遺産というタイトルが付くのは大歓迎であると同時に,世界遺産に向けたこの地域においては国民の皆さんに対する思い,意識の醸成が実際に世界遺産ということで盛り上がれば,それに越したことはないのではないかと思います.今は非常に大きな規模の環境教育みたいなものだと思っています.世界遺産というタイトルが付くことが.

 もう一つ,世界遺産になった場合に相当人が来るであろうということは想像がつくかもしれませんが,本郷先生,青木ヶ原樹海の流量調査等の人口調査をされて,オーバーユースでこの地域に人がどっと集まった時の,例えば生物相に対する影響など当然考えられることですよね? たっぷり人がくる.専門の立場から,この辺にどっと人が来た場合,たぶん世界各国から来るでしょうから,世界遺産になった場合.今も多分相当危ぐされていられる方がいるはずなのですよ.どっとこの地域に人が集まった場合に,当然交通手段であったりとか何とか,オーバーユースと思われるような状態になると考えてよろしいのでしょうか? 青木ヶ原樹海を徘徊(はいかい)する…….

本郷:県環境科学研究所の本郷といいます.青木ヶ原樹海をエリアとした場合の利用者の実態と,それに伴う自然環境の変化をモニターするための基礎調査をやっています.

この調査は,今後利用者が増えた時に,変化をちゃんと見極められるようにするためにはどういう指標を使えばいいのかということを明らかにすることを目的にしています.ですから,この調査から,すぐに今何人来ているから環境がこれくらい変化していますということはむずかしく,今度管理計画を立てる際に,その中にどういう内容を盛り込めばいいのだろうかという視点をもって進めています.

 先ほどからの話で,自然遺産なのか文化遺産なのかという範疇(はんちゅう)の問題は議論の対象ではないのかもしれませんけれども,こういう世界遺産に指定を受けた時に,自然資源がどういうふうに守られるか,どういうふうに扱われるかというのがポイントだと思います.資産として認定され遺産になったものについての管理計画を立てた時に,特に指定されないようなバックグラウンドの自然を地元住民がどのように主体的に守っていくかが大切だと思います.

吉澤:一つの大事な視点だと思いますよね.文化遺産のコアになる部分だけ守ればいいのかということ.それはやはりそうではないと思います.今,自然公園法という厳しい法律の中で,かなり厳しい規制というのは全体の上ではかかっているわけです.この図の中で見ていただければ分かるのですが,終わりから2ページ目ぐらいに,富士山を中心にして色がついています.色のついているところというのは自然公園法のエリア,特別保護地区から普通地域のところまで区分けをしています.普通地域のエリアもかなりありますけれども,特別保護区から始まって,第1種から第3種まで非常に厳しい規制がかかっています.それがベースになって,自然がそういう法律によって保護されているということ.ただ,それはこの法律で保護されているだけであって,そこにゴミを捨てるとか,違法に手を加えるとか,そういう人が出てくると,ただ規制がかかっているだけという話になってしまいますので,それをきちっと保全していこうじゃないかという機運というか,そういうものも大切だという議論というものが必要だと思います.

吉澤:ゴミを捨てる人がいれば,それを拾う人もいるし,行政はそれを監視する役目もしなきゃいけないしですね.世界遺産になれば,そういった監視の目というか,そういうものも必要です.

荒牧:私は自動的に厳しくなるとはとても思えない.

吉澤:自動的にはならないですね.

荒牧:だから,そういうときに世界遺産にするので,皆さん,きれいにしましょうよと言って,予算を付けようとかね.毎年,ボランティアがゴミを拾って,毎年新聞に出るというのではおかしいと思います.東京の人間を見てごらんなさい.すごく公共心が悪くて,みんなどんどん捨てていく.それはちゃんと税金でもってゴミ収集車が来て清掃しているわけです.それと同じで,やはり予算措置がないとできない.金がないから駄目だというのであれば,来る人から取ればいいとか,もう少し積極的な話,具体的な話が出ないかなと思っているのだけれども.トンチンカンですか?

田村:はい.トンチンカンではありません.いかがですか,そのへんのご意見.

小池:小池と申します.富士吉田に住んでいます.私は環境関係のNPOには入っていません.一般の市民として.世界遺産は,文化でも自然でもいいのですけれども,単純に富士山を守り,子どもたちに残したいというのがあります.いい事だったら,問題は後から解決していけばいいと思うので,進めていっていただきたいと思います.

 富士山に2回ほど登ったのですけれども,逆に「無料で登ってもいいのかな?」と思ったわけです.ゴルフに行くにしても,釣りに行くにしてもお金を払ってする時代の中で,多少お金をとって,抽選でなければ登れないとか,そういうことにしても,やはり登りたい人は登りたいし,そういったようなことをして自然の負荷を減らすということ.またそういったお金で自然を保護していくというようなことがなぜ簡単にできないのかなと思います.

荒牧:入山料みたいなことですか.

小池:そうです.

荒牧:私もそう思って,いろいろところに電話をかけて聞いたのですけれども,日本でそういうことをやって成功しているところはないそうですね.

渡辺(長):日本の場合には,人が作ったものにはお金を払うけれども,自然には払わないですね.だけど,本来の形としたら,大事な部分を守っていくためには,今おっしゃられたように僕は必要だと思うね.自然を保全していくためには,何らかの形で人の手も加えないとできないわけで,特に里山に近いようなところは人為的な管理を施さないと,絶対に守っていけないわけですから.そういったことも考えると,その場に入って楽しんでもらうためには,そういうシステムは絶対必要だと思います.

荒牧:アメリカの話で恐縮だけれども,ヨセミテとか国立公園がいっぱいあるでしょう.だいたい自動車1台20ドル.がっちり取られますよ.自然を見に行くのであって,人工のものは何もない.ビラをくれて,「実はわれわれは一生懸命やっているのだけれども,人が来すぎて,オーバーユースになっていて金がかかってかなわない」と.それで,「どうしたらいい」というアンケートがあったわけです.一つは制限を決めて,一定の人数で閉めてしまって,あとは入れないというのと,もう一つは値段を上げて経済的なバリアをつくるとか――どちらがいいか,印をつけろというわけです.もし,値段を上げてもいいというのであれば,いくらまでいいかと,40ドル,60ドル,80ドルと書いてあるわけです.これはやらせに近いけれども,そのくらいみんな一生懸命考えている.物知りの人が僕に言って,あれは100パーセント国有林だからやれること.富士山を見てみろ.いろいろな権利が錯綜していて,絶対に金をとれない,というわけです.本当ですか?

小野:日本の場合,環境税というのはそもそも目的税.つまり,目的がはっきりしたものでなければ取れないということがあります.逆に言えば,私は先ほど3回発言して3回同じことを言っているのですが,われわれが議論をする時に,県が持っていこうとする世界遺産の方向性というのは何で,どういう優先順位があって,遺産登録をする目的は何かということを明確に見せてほしいということです.何度も言っています.それがないと議論ができないと思います.

 今の話についても,確かに金を取ればいいという議論もあると思います.入山料を取ればいいじゃないかと.しかし入山料は何に使われるのだという議論にまでいかなければ,このように集まっても四方山話でおしまいですよ.もっと言えば,県が出しているような暫定リストがある.対案としてこういうふうにすれば,富士山は世界遺産になって,登録された意味があるのだというものが出てこなければ意味がないような気がします.そこができるかできないかは別としても,今の段階でこれまで議論が出ている部分も含めて,もう少しきれい事ではなく,県が富士山を世界遺産にする一つの目的やテーマ,どこに富士山という山を持っていきたいというものが見えるものを見せていただかないと具体的な議論にならないと思います.

 コアとして何を守るか,バックグラウンドとしてどういうふうに扱うかということも全くそうでしょう? 今ここで出ているのは,リストとして,県として天然記念物が出ているだけですよね.それでは,実際に背景にあるものは何だということ.どうして守る.前の会でも発言しましたけれども,伊勢神宮という社殿が神々しいものを持っているのは,バックにあれだけの照葉樹林という森があるからですよね.富士山も神々しいのは,やはりバックに森林というものがあるからです.富士山が景観的にも素晴らしいのも,文化的にさまざまな作品が残されているのも,海外に愛されたり,日本人が持っている信仰心をくすぐるのも,そういった自然の舞台装置があるからなのです.だからそういうものも含めて議論をするたたき台がよく分からない.

 一般論として何度も話が出ていますけども,遺産登録すればみんなの合意形成として富士山をもっと大事にするのではないか――そんなことになってしまっていいのだろうかという部分と,とりあえずいいことなのだからやってしまえという議論も分かる気はします.しかし,その先にあるもの一体何だろうかということが見えてこないと,それではどうしたらいい,何をどういうふうに守ったらいい,リストの中に何が必要だという議論になっていかない気がします.

三木:それだと,すべて行政の指導待ちという気がします.

小野:違います.

三木:先生が言われるのは,われわれの方である程度その辺のたたき台となる意見を集合して持ってきてほしいという意味合いだと受け止めていますけれども.

小野:それについて,誰かが中心になってできればの話ですよね.私が県に求めたのは,暫定リストはたぶん素案ですよ.こういう場を荒牧先生が設けてくださった中で,荒牧先生が言われていることについて議論するのも大事ですけれども,せっかく県の人が見えていて,われわれとして,この暫定リストの素案だとわれわれは納得できないということを伝えるのも一つの場だと思うのです.だから,県におんぶにだっこしようというものではなくて,世界文化遺産というものになれば,日本人が富士山を考える目というものが変わってくるのではないかという期待感が多分にあると思います.富士山という環境を守っていくための一つの戦略ですよ.ただ戦略の図面が見えていないのですよ.その中で戦術だとか局地的にどういうふうに議論したらいいのかということはなっていかないというのが私の意見です.戦術を誰がつくるのかということです.

荒牧:それは大変立派な議論がけれども,戦略でなっていないというのであれば,それで終わりですよ.県を責めているだけで.あなたが対案かなにかで,こういう戦略があるのだから,「おれのを使え」というのであれば話は分かる.

小野:そうですね.ですから,これに対する対案を出すぐらいのものがなければ,これはできませんよ.

荒牧:「できませんよ」というから,できないようになっちゃうのではないですか.

小野:「できませんよ」という話の中にあるのは,県としてなるべくそれに近いものについて努力してほしいということです.1点は.それから,われわれとして何かをやろうとすれば,県にもやはりそういう方向を向いてもらいながら,われわれとして出すべきものとしてはそういうものだろうと思うのです.

吉澤:前に出てきた中で入山料とかいう話も出ていましたよね.今,静岡の方では森林(もり)づくり県民税という税金が上乗せされています.個人県民税均等割額に1人400円上乗せされています.それは静岡の森づくりのために使うという目的税です.法人にも同じように県民税が上乗せされています.5%です.そういう目的税を取っているわけですよ.それでは,山梨県はどうかということ.環境税とかミネラルウォーター税を検討したらということが言われているけれども,いろいろと試行錯誤しているけれども,うまいものがない.自分たちが税金を払って,自分たちが守って,それでいいのかということもあります.

 ですから,利用する人が当然お金を納めて,それを使って地元の人たちが環境を守っていくという仕組みというものは考える価値のあることだと思います.

 しかし,ここでそういう考えが基にあって,「富士山を世界遺産に」と言っているわけではなく,先ほどのモノレールの話もそうですし,登山電車という話もあるわけです.スバルラインを廃止して,車ではなく環境にやさしい交通手段で行きたい人を上げればいいではないかという話もあるわけです.ですから,どういうふうに考えるかというきっかけということが必要だと思うし,世界遺産が一つのきっかけになればいいと思います.

 世界遺産というものが最終の目的ではなく,やはりそこから先をつくっていくのは地域の人であったり,山梨県であったり,地元の市町村であったり,そういうところの人たちがやはり中心になって考えていかなければならないのではないかと思います.

荒牧:私は,吉沢さんとは何も予め申し合わせていません.私は「税金を取れ」と言っているのではないのです.今の地方自治体とか政府とか,そういう官僚機構は透明性が十分ではないと思っています.それで例えば入山料1000円もらいますと言ったとき,「一体何に使うのか分からない」というので,世間は反発するんじゃないかという気がします.

 理想論と言われるかもしれないけれども,やはり別の違ったやり方でやるべきであって,そこで私が言いたいことはコンソーシアムみたいなもので何とかならないでしょうかということです.協議会というのは,いくつかの利害の違ったパーティーが集まってきて,そこで納得ずくで議論し,徹底的に透明性を確保しないとだめですね.あなたが1000円納めて,そのうちのいくらをこのことに使いますというように説明が必要.金の使い方の透明性というものは,日本は非常によくないと思います.現状で税金でやるのは無理だと思います.東京の人間が富士山に行って,1泊2日で山に登る時に「山をきれいにするために1000円ください.その代わりに何に使ったかちゃんと教えますよ」と言ったら,1000円ぐらい出すと思います.現状では「何に使うんだ」という不信感は非常にあると思います.

渡辺(長):先ほどもお話したのですけれども,この問題は最善の方向にもっていくためには,ややもすると,地元に住んでいるわれわれが被害者になる可能性というものは十分あるのですよ.実際問題として.変な方向にいくと,被害者にならざるを得ないという可能性は十分にあると思います.そのために,みんなでデメリットの部分を解消するために何をやるべきかという議論をして,最善の方法を見つけてそれを提案していくという形づくりについてこれから進めていっても遅くはないと思います.もっともっと素晴らしいところがあるので,それを追加してもらえないかとかいう意見をどんどん出すべきだと思います.それが将来に向けて,われわれの子供たちや孫も含めて,僕らが残しておかなければならない最重要の課題だというふうに思います.当でしょうか.

田村:はい,いかがでしょうか.

三木:ここにいらっしゃる方はそれぞれが環境保全とか自然保護を考えて独自の活動をしていると思います.話に出た入山規制ですとか,入山料を取るとかは5,6年前,あるいはもっと前からこうした行政主導の会議に出た時にもかなり発言もしているし,問題点はかなり出つくしています.実際に次は青木ヶ原だと言っても,富士山自体もそうした入山規制ができない,入山料も取れないという状況ですよね.

 私は世界遺産は「総論賛成」ですけども,なぜ賛成かというと,こういうきっかけでもないと,行政が動かない.われわれに行政を動かせる力はないですね.行政が一声かければ,こうやって集まったりできます.そういう立場の違いというものはかなりあるもので,ですから,われわれはある程度こういう会議では本音を言うしかない.ぽつぽつやっているところもあれば,山小屋で一生懸命ゴミ拾いをやっているところもあればという形で,それに対して行政がもうちょっとわれわれの意見をくんで,それに対してお金でもということを期待しても,ルートがないんですね.

 ですから,世界遺産になるということをきっかけにして,今日の会議もそうなのですけれども,このきっかけがあればこそ,こうした環境問題も議論できるわけであって,これを何とかいい方向に生かしたいと思っています.モノレールの話が出ましたけれども,景観条例とかでね.例えば,電柱を全部なくすとか電線をやるとか,ぜひ行政も「これだけをやった」というものを示していただきたい.どこの団体もそうですけれども,年間何千人,何万人のお客さんをこちらに招いて,それに対して自然保護の必要性ですとか環境保全の必要性を説いているわけです.自然を活用しながらというところで,それだけに終わらせたくないというのが一つの意見です.

吉澤:世界遺産になったところは世界遺産センターというものをよくつくっているのですけれども,それがだいたい行政主導でつくっているのですよね.その世界遺産センターで何をしているのかというと,文化遺産であれば文化財の保護,自然遺産であれば自然の保護ですか.それを行政が考えながらやっているということです.それが現地にあれば,よりタイムリーというか適切にできるから,現地に世界遺産センターというものをつくってやっています.それが,これだけ広大なところになれば,行政だけで果たしてできるのかなというところもあるわけです.どれだけお金をかけたらいいのか.ですから,それを,皆さんがそれぞれの立場でできることがおそらくあるでしょうし,行政も行政でできることがあるでしょう.荒牧先生がおっしゃっていることは,そういうものをみんなの力として,それぞれができることを何かやるためには,こういう緩やかな組織というか,緩やかな組織ではあるけれども,考える機会というものが必要ではないかということを言っているのではないかと思うのです.ちょっと違いますか?

荒牧:そのとおりです.

吉澤:ですから,僕たちが今度世界遺産センターというものをどういう形でつくろうかということ,まだそこについては考える余裕がないから考えていませんが,作るのは4,5年先の話ですけれども,考えていきたいと思っていますので,その時にはいいお知恵があれば拝借してやっていきたいというふうに思っています.

荒牧:もう1回しゃべって申し訳ないけれども,不本意な方向にいきそうなものだから,つい言ってしまいます.大げさだけども日本は民主主義国家です.何で役人がそんなに威張っているのですか?要するに民本,市民が主人公でしょう.皆さんはもっと役人に対して命令したらどうですか.

渡辺(長):今,荒牧先生が言われるようなことをここで議論して,議論できるような組織をつくるわけです.そこでおそらくこれは役人がどんどん進めていくことになるはずですから,それに対して「これはまずいから,こうやってくださいよ」というような意見が出せるような組織づくりをやらないと.

荒牧:それは早くやらないと.役人さんは,さっきから言っているように一定の予算でぱっとやるからね.私が言いたいことは,せめてだめもとでいいから,ちょっとでも獲得したらどうですかというすごく低次元の提案をしているわけです.それには,例えばモノレールも結構ですけれども,どなたかおっしゃっていた電線が汚いとか,景観の問題ですね.看板が汚いとか.そういった具体的な話なら何でもいい.細かい話というものをやると,それについて予算がいくらとかいろいろあるじゃないですか.そういうようなことでやっていくのも一つの手だし,また大きく今いったような入山料というものをどうやって管理するかとか,そういう話は話として面白いけれども.そういう議論というものをいくつかする気はありませんかということです.なぜかというと,皆さんが地元の人なんです.私は東京の人間です.

田村:この場でですか?

荒牧:この場というか,もっと広く.ここだけではだめですよ.だって,ここは私の理解では,河口湖,富士吉田,鳴沢の方々だけでしょう? 国民全体が見ているのは富士山一つなんだから.静岡まで行って,「一緒にやろう」と言わないとちょっと難しいのではないですかね.役人側は結束して山梨と静岡でいっしょにやっているのですから.

渡辺(長):一つの例として,リストの中に船津口登山道,吉田口登山道が入っていますね.この管理形態は,現在の方法ですと,重機が入ってどんどんやっているのですよ.そういうシステムではなくて,例えば昔からある,これは前回からいろいろと提案しているのですけれども,昔からある古来からの道普請のような形をつくって,ボランティアでも何でもいい,学生の郷土教育活動の一環としてでもいい,そういったものを利用し,人の手によって管理するような登山道にできたらなと僕は思うのですよ.

荒牧:例えば,具体案としてそういったもの提案したらいかがですかということです.そういう話がなかなか出てこないのでちょっとイライラしているのだけれども.私は東京の人間で,具体的な皆さんの悩みというものは,本当に知っているとは言えないから.問題点というものは.間違っているかもしれない.

井出:先ほど司会の田村さんが言われたように,富士河口湖が世界遺産の暫定リストに富士五湖が入るということに反対しました.自分はその場にいたのですけれども,自分自身はたまたま旅館組合で,河口湖の温泉旅館組合とか観光協会などの枠組みの中で参加させていただいたのですけれども,そういった形の中で組織のトップの人がこうだという発言をすると,それがその代表者が所属している組織のコンセンサスだと認識されてしまうということがよくあって,必ずしもその組織のコンセンサスではないのに,あたかもコンセンサスであるかのように受け留められてしまう図式があります. 私自身はそういった意味で言うと,自分自身が所属している組織の中においては“アウトロー”なのですが,“アウトロー”である自分自身が「こう思う」ということを,遠慮なくぶつけ合える場を求めています. そういう意味で,今日お集まりの皆さんと今後も遠慮なく意見交換出来,様々な角度から思考を積み重ねることが出来るのであれば,私個人としましてはとてもウレシイことです. 今日お集まりの皆さんは如何お考えでしょうか? 皆さんお一人お一人の『今後の会の進め方についての意見をお聞かせ頂きたい』と思います.

田村:はい.

三浦(圭):鳴沢村の三浦と申します.私なりにここまで話を聞いてきた中で思った事は,ここにいらっしゃる方々は全て富士山を商業的に捉え,関わりを持っている方々だと思いますが,我々のように富士山を管理し,生活の中に富士の自然が溶け込み暮らしている者とでは世界遺産登録という言葉の上だけで議論するにはちょっとしたズレのようなものを感じます.

世界遺産への手続きが我々の手を離れた所で着々と進んでいます.我々のように古代より先祖代々受け継いできた富士山との関わりを無視した関係無い者達によるルール作りは余りに地域住民に対し暴力的行為ではないか?しかし,このまま何もせず富士山が現状のまま未来に引き渡していく事についても年々汚され破壊された環境を見る限り疑問を感じるのも事実.

私はこう思います.こんご益々必要になるのは地域住民の富士山に対する声を集め,世界遺産登録の条件の中に地域住民の文化,伝統を守れる範囲で守り,自然との共存共栄が出来る形でのルール作りと,環境整備が必要だと思います.

*****(この発言に関連して,フォーラムの終了後,三浦氏から追加のコメントをいただきましたので,以下に掲載します.)

三浦(圭):余談ですが,富士山から下りて来る獣として熊,鹿,猪,ウサギ,いたち,てん,おこじょetc.これらが山林や私有地で被害をもたらした際,どの程度まで駆除できるものなのでしょうか? 現状としては猟区を設け,12月から2月までの期間を定め狩猟をOKとし地元の猟友会が駆除をしています.それでも実態としては鹿,猪の被害は麓の民家近くの畑や山林に達しているのが実情です.追加措置として害獣駆除という期間が1年を通じて設けられているのが実態です.

それから富士の恵として春には山菜,秋にはきのこ類を地元住民はもとより,近隣首都圏からも山菜採り,きのこ狩りに山に入る方々がいますが登録されてしまった場合,このような行為を続ける事ができるのでしょうか?ちなみに富士山天然山菜類は銀座をはじめ,

首都圏の料理屋,遠くは関西・京都の料亭にまで高値で出荷されています.各方面の先生方も口に出来なくなる可能性もあるのかもしれません.

更に,近年富士山天然水として地下水を汲み上げる業者も増えてきていますが,課税対象とか,なんらかの規制がかかってくる可能性はないのでしょうか?地下水も富士山の天然資源という観点からすればあり得る話しでは?とすると地元の飲料水は殆どが地下水の汲み上げによるものなのでこれも心配.

また,山梨県側富士山,通称北富士地域には北麓林産共同組合と3つ恩賜林組合があり県有林・国有林の間伐を定期的におこない森林維持に努めています.しかもその間伐材は国産建材や富士の製紙工場における国産紙パルプ原料として使われそこにはそれらを生業とする業者が沢山あります.以前,熊野?吉野?では世界遺産に登録された事により森林への手入れが出来なくなったと聞いています.これも業界にとっては深刻な問題になるはずです.

研究者の人々にとってはまゆつばものと取られるかもしれませんが,鳴沢村には現在も雨乞いの儀式が伝承されています.実際,ここ15年の中で2回の雨乞いがなされ2回とも成功を収めています.この雨乞いの儀式に使われる場所が世界遺産などの規制を受けるのかどうか私は心配です.場所等については儀式に参加する村の長数名しか明らかでないため,詳しくは言えません.

私の知りえる中での危惧はもしかしたら小さい話なのかもしれませんが古くから信仰の山として栄え,厳しい自然環境の中先祖を育んできた富士の懐は深く,我々にとってかけがえのない物であります.確かに富士山を未来人に引継いでいくためには今と違うパワーが必要です.ですから国策として何か手を下してもらう事はある程度お願いしたい所ですが長年生活の中に溶け込んできたものが奪われてしまうような事を押し付けられるのもいかがと思います.先生に力を貸して頂き地域住民がもう少しこの事を考える事が出来る機会を私は青年会議所を通じ準備したいと思います.

*****(三浦氏の追加コメント終わり)

荒牧  私の考えを申し上げますと,予定としては,次は静岡県に頼みます.どういうことになるか,全然分からないけれども,さる人に頼んで,活動家の方に集まってもらって,ご意見をいただくということ.それを概要にして,ホームページに載せますから,ぜひ見ていただきたい.「皆さんいかがですか.山梨と一緒にやりませんか?」と静岡で1回か2回やって,こういう会をいくらでも繰り返しやることはやぶさかではございません.私の提案しているフレームワークの中であれば.そういうことでございます.

 その時にまた吉澤さんみたいな方が来てくれて・・・.私は個人的に,彼が気の毒で,これから車で帰らなくちゃいけないのだから,申し訳ないのだけれども.それだけ重要だと思って来ていただいた.ごめんなさい,少ししゃべりすぎて.

田村:残り時間も5分を切っておりますが,この辺で討論を終了したいと思っています.実はこの席は世界遺産をするかしないかの是非を問い掛けている場ではないのですね.少なくとも建設的に前を向きながら,世界遺産の動きを住民レベル,市民活動レベルで考えようという会であると同時に,県もしくは国民会議が進めている世界遺産運動に対して,このまま見ていると,僕らは何の意見も反映されないのです.なので,皆さんのお知恵と力をお借りして,もしくは手を携えて,県に意見を申し出るということ.この場はインフォーマルかもしれませんが,フォーマルな立場で意見が言える小さな緩い組織を皆さんと一緒につくりませんかというのが本来の趣旨なわけです.今おっしゃられたように続けていきたいとも思いますし,決まった後に後悔したくないというのは個人的な最大の意見ですが,もしよろしかったら,お声をかけていただいて,この地域の世界遺産についてお話しませんかということで終わりにしたいと思いますが,いかがでしょうか.

中川:最小の努力で一番効力を発揮させるためには時間等の問題がありますけれども,提案のあるところは文章にしてどこかに集約すれば,その次のまとめる資料をつくるにしても,途中で付属の資料として県に見てもらうにしても,役に立つと思います.箇条書きも明確なものでないぐらいにで,事務局でまとめられるような形でも個人でもグループでもいいと思いますけれども.

田村:これをたたき台にしてということではなくて自由にということですか?

中川:一番建設的なのは,これに組み込まれる形だとか,目標などに関しては全く違うとか具体的なものになるかもしれませんが,これを膨らませるというか,助勢できるものにするためのレポートを集めれば.それぐらいのスピードでやらないと,とは思いますけれども.

荒牧:もう1回誤解がないように.この会議は座席をみんなに提供するだけです.ですから,グループをつくってアクティブにやろうというのは皆様のほうで始めていただくのが筋だと思います.私の立場はあくまでも両県が一緒にやってほしい.なるべく皆さんが広くやれればいいと思います.どうもありがとうございました.

田村:時間となりました.これで3回目になりますが,世界遺産座談会を終わりにしたいと思います.よろしかったら,また一緒にお話し合いをしたいといます.どうもありがとうございます.

 

(終了)

 

*****<早川氏から寄せられた追加のコメント>*****

富士山文化保全のあり方

早川 宏

 

山梨静岡両県が文化庁に提出した世界文化遺産暫定リスト素案は、富士山文化の全容を語り尽くしているとは言えません。それは当然のことで既に世界遺産に登録されている類似の文化財や保存状態の良くないものは選定されないからです。素案にある「適用種別及び世界文化遺産の登録基準」をみると冨士信に関わる記述が3分の2を占めています。素案の記述と一般の人が富士山を世界遺産にしたいという理由やイメージとは乖離しているのではないかと思います。素案のまま世界文化遺産登録された場合、単にイメージが異なるだけの問題ではなく、登録が富士山文化の保全に適切に機能しない可能性があります。なぜならば、本来の保全するべき富士山文化と世界遺産として保全を義務付けられる文化財とが同一でないことや、一般の人は千年以上歴史のある伝統的な冨士信仰文化の保全に関心がないことが考えられるからです。

富士山文化の適切な保全のために下記の提案を致します。

  • 始めに富士山文化に関する総合的研究を行い「富士山文化総合学術報告叢書」を作成することを提案します。これに基づき世界遺産登録に関わらず本来保全するべき文化財を適正に保全する体制をつくることが求められます。編纂の拠点は富士山周辺に設け、作業に一般ボランティアを公募し、地域住民の富士山文化への関心や知識の涵養を図ることにより、次世代への文化伝承の基盤とすることができます。収集された資料と組織を基に「富士山文化研究所」を創設し、富士山文化の保全・管理・活用の研究、展示などによる教育など活動の拠点とすることが望まれます。自然についても同様な事業が求められます。
  • 次に諸要因によりコア、バッファー両ゾーンに指定できない富士山文化に因む区域をも適切に保全するために第三カテゴリーの「文化的景観ゾーン」を設けることを提案します。例えば遠隔地の富士塚群、広大な裾野の自衛隊演習場、富士講道者が巡拝した内八海に含まれる観光施設のある湖沼、近代化が進む430年以上の歴史ある吉田御師のまち、公募による「富士山眺望地点」等を、長期的視野の下に行政、住民、既得権者、学識経験者等が「十分協議できる場」を設け、百年の猶予を設ける等、個々の事情に対応した条件で保全管理を志向することが求められます。
  • 3に文化財を点ではなく「群」として捉え、その地域を「面」で保全することを提案します。富士信仰の文化財は倒壊寸前の建造物もありますが、巡拝修行に意義があるため、状態の優劣に関わらず群として保全が求められます。吉田御師のまち建造物群、吉田口登山道冨士信仰建造物群、富士山内八海巡拝所群などの文化財群があります。個々の文化財には重要文化財的評価にはなじまないとしても群として一つの重要文化財以上の文化的価値があることがあります。
  • 最後の提案をします。世界遺産は既に800以上あります。近い将来千を超え、地域の不均衡などが是正された際には2000に近づく可能性があります。その状況下でスーパー世界遺産(世界遺産の中の世界遺産)の選出が考えられます。もしそのような制度ができたとするとその選出条件はどうなるでしょうか。選出数は世界中で20件、世界遺産に選出されてから10年以上が対象、文化財の類似性は問わない、平均的評価が10ポイントとするとその数倍ポイント以上、世界文明への貢献や世界遺産のあり方への良好な影響力、平和への貢献力などが求められます。その典型的な見本が富士山文化であることが望まれます。現在スーパー世界遺産の登録制度はありませんが、せっかく富士山を世界遺産にするというのなら当初からスーパー世界遺産の構想の下に富士山を世界遺産にするという選択肢はないのでしょう。

                                  (以上)

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○参加者の自己紹介

渡辺 長敬

 富士に学び,富士を知り,富士と仲良しになる,そんな体験や生活ができたらと考えたのが,富士山自然学校.「知れば,知るほど,深い山・・・それが富士山なのです」.富士山北麓環境ネットワーク理事長,NPO法人富士山自然学校理事長,環境省稀少野生動植物種保存推進委員,環境省公園指導員,日本洞窟学会会員,富士学会会員,山梨県植物版RDB編纂生物調査委員

近藤 光一

個人から学校,企業,各種団体などを対象とした富士登山全般のサポートやエコツアーの企画,ガイドを行っている.夏のピーク型登山はもちろん,四季の富士山に迫る登山を実施.総合学習や講演活動を通じて,富士山の現状を発信している.富士山登山学校ごうりき代表,NPO法人富士山サポートセンター理事長,NPO法人富士山自然体験活動推進協議会理事.

中川 雄三

 動物写真家.1980年,日本大学農獣医学部卒業後,富士吉田市に移り住み,以後,野生動物の記録写真を撮り続け,人と野生動物との架け橋となるべく自然保護運動に力を注いでいる.環境省・自然公園指導員,山梨県・環境アドバイザー,日本野鳥の会・富士山麓支部副支部長,コウモリの会・評議員などを努め,人と自然との共存を目指して地道な活動を続けている.

田村 孝次

 1997年英国から帰国後,河口湖を基点に様々な人々に対して自然体験活動,指導者養成,企業研修を展開.多元,多様な方法で実践的な環境保全活動や環境保護思想の普及,自然との共生,社会の持続可能性を追求しシステムの構築に努める.有限会社カントリーシステムズ 代表取締役,NP0法人フィールズ(富士地球教育自然学校)専務理事,NPO法人富士山自然体験活動推進協議会 副代表理事

井出 泰済

 富士レークホテル常務取締役,富士五湖観光連盟青年部理事,河口湖温泉旅館組合理事,富士五湖JCシニアクラブ会員,NPO法人富士山エコネット監事,富士エコロ人発行人.

観光業に携わる傍ら,富士山を中心としたエコツアーの開発や展開を研究している.

ホテルでは,年間100日「富士山自然教室」と称したエコイベントを実施している.

深沢 修

 造形作家.「擬態考」というコンセプトをもとに美術と自然,社会機能との関わりを追求.2004年,夢紙工房を開設.論考に「擬態考」,「ハザマ」など.NPO街づくり文化フォーラム理事,富士エコロ人編集委員長,山人会会員,山梨デザイン協会会長.NPO芸術文化振興センター理事.

三木 廣 

 早稲田大学卒.社会人生活を経て,平成7年より富士北麓にて民宿経営.平成12年,NPO法人富士山クラブエコツアーセンター長に就任.平成17年5月にNPO富士山エコネットを立ち上げ,平成18年7月理事長に就任.富士山・青木ヶ原樹海を中心にエコツアーを実施.現在までに,小中学生約15万人が参加.環境省自然公園指導員.

小野 俊彦 (NPO法人アースバウンダー 理事長)

 1957年富士吉田生まれ,生来の生き物好きと学生時代の山岳部での活動,青年会議所での地域振興を通した経験から,富士山の環境資源を活かした観光のあり方としてのエコツアービジネスを1995年から始める.環境教育や地域振興などを中心に山中湖村を拠点として活動している.

北井 清一*

 富士五湖地域で主にガスや灯油を販売する富士燃料?代表取締役.環境問題の悪化を懸念し,10数年前からエネルギーの一環として太陽光発電の販売施工を始め,現在の実績は地域NO.1.富士五湖青年会議所や環境レボリューション会議メンバーを経て,地域の青少年教育にも力を注いでいる.

三浦 圭治

 ffエコ・プランニング代表取締役.ミウラ建設取締役.NPO鳴沢ファーム理事.富士五湖JCシニアクラブ会員.環境に優しいエコ照明設備の構築と自然エネルギーを利用した発電事業展開とする傍ら,鳴沢村は富士北麓農産物生産エリアとして日本の健康的な食卓を担うべきをモットーに有機農法による食材の生産と鳴沢村ブランド作りを地元4Hクラブ等と研究している.

吉澤 公博(よしざわ きみひろ)

 1953年 長野県生まれ.東北大学法学部卒業後,山梨県庁へ採用.土木部,総務部,企画部などで,主として財政・経理事務を担当.計画部門では,山梨ハーベストリゾート構想(H3),やまなし障害者プラン(H10)を策定.現在,政策秘書室政策主幹として富士山の世界文化遺産登録を推進.

本郷 哲郎

1987〜1997年東京大学の後,現職において,人類生態学分野の研究に従事する.人と自然のかかわり方の変化が,人の健康や生活にどのような影響を与えているかという視点での調査研究を進めている.現在は,県内の複数の地域をフィールドに,地域の自然環境の保全と住民のアメニティの向上が両立したいわゆる健康な地域生態系の構築を目指している.

荒牧 重雄

 1957年〜2001年:東京大学地震研究所,北海道大学理学部,日本大学文理学部で主に火山学の基礎研究と教育に従事.元日本火山学会および国際火山学会会長,学術会議会員,富士山および浅間山火山ハザードマップ検討委員会委員長,現職は山梨県環境科学研究所所長.富士山世界文化遺産登録推進両県合同会議の二県学術委員会委員.火山災害の防災・減災対策や火山地域の環境保全・自然保護に関心を持っている.

 

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○フォーラムの実施要領

 フォーラムの主体は,複数回の会合及びその記録の公表・出版を行うこととする.会合の性格は,インフォーマルな座談会,懇談会,公開された講演会,パネル討論などさまざまな様式を,状況に応じて適用する.参加者の組み合わせも多様であり,地元一般住民,自然・環境保護の活動家・グループ,地元企業(観光産業を含む),市町村当局,各種団体,県の担当者,国の機関,国民会議の担当者などの中から,適当な組み合わせを拾い上げて,個々の会合を企画する.事務局は,山梨県環境科学研究所に置く.

 会議における発言は自由であり,基本的にはインフォーマルなもので,例えばある機関・団体を代表するという意識にとらわれて,発言が後ろ向きで硬直化するようなことは避けたい.したがって,この会議においてなされた発言は,ある意味で暫定的なものであり,個々の発言の内容について,後になって,厳密さをもって責任の追及がなされるようなことはないという合意が,予め参加者全員によってなされることとする.またこの会議の成果を特定の宣言やコメントとして発表することはしない.